「災害」との認定が重要なのでは?新型コロナウイルス

2020年05月10日

数日かけて読み終えたのは、『感染症の世界史』(石 弘之著 角川ソフィア文庫)でした。
この本を読んで一番良く理解できたことは、今の新型コロナウイルスの問題をどう見るかということです。

コロナ対策で入院・外来患者が激減し、医療機関の経営が圧迫されている中で、
全日本病院協会や日本医師会は、医療機関が経営破綻しないように、災害時と同様に前年度の診療報酬支払額に基く概算請求を認めるように、要望書を提出しています。昨日の参議院予算委員会で、日本共産党の小池晃書記局長は「日本の医療機関を守るために、最低限の要望をしっかりと受け止めるべきだ」と主張しました。
これに対し、加藤厚生労働大臣は「難しいと思う」。安倍首相も「災害時の対応とは違う」と答弁しています。

しかしこの本を読むと、パンデミックは災害だと理解しなければならないことが判ります。

国連は自然災害を地殻災害・気象災害・生物災害の3つに分けているそうです。
だから、そもそもこんな世界中を巻き込み、経済にも市民生活にも大打撃を与えている新型コロナウイルスはやっぱり災害だと認定しなくちゃいけないんだと思いました。
ただ日本の「災害対策基本法」では、災害は「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火」その他の異常な自然現象又は大規模な火事もしくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう」と定義されています。
つまり、政府は新型コロナウイルスの問題を「災害」と認定することから始めなくてはいけないのではないかと思います。
そして、災害に準じた支援対策を取らなくてはいけないんだと思います。
これがわかったことが、この本を読んで良かったと思う一番のポイントでした。

この本はとても面白い本で、興味深いことがいっぱい記されています。
まえがきには、こんなことが書かれています。
「感染症が人類の脅威となってきたのは、農業や牧畜の発明によって定住化し過密な集落が発生し、人同士あるいは人と家畜が密接に暮らすようになってからだ。インフルエンザ・SARS・結核などの流行も、この過密社会を抜きには考えられない。
急増する肉食需要に応えるために、鶏や豚や牛などの食肉の大量生産が始まり、家畜の病気が人間に飛び移るチャンスが格段に増えた。ペットブームで買主も動物の病原体に晒される。の家や居住地の造成が急ピッチで進み、人と野生動物の協会があいまいになった。このため、本来は人と接触がなかった感染力の強い新興感染症が次々に出現している。
大量・高速移動を可能にした交通機関の発達で、病原体は時をおかずに遠距離を運ばれる」。

文明の更なる発展と新興感染症とは密接な関係があり、今回のようなパンデミックの発声は既に警鐘が鳴らされていたことだったと思います。
鳥インフルエンザを引き起こすウイルスの変異によるパンデミックが特に注目されていたのだと思いますが、コロナウイルスも既にこの間SARSやMARSを引き起こしてきていました。
コロナウイルスの凶悪化は既に認識されていたところでした。

新興感染症との戦いに打ち勝つためには、畜産をはじめとした農業のあり方や森林開発や抗生剤汚染の問題、そして大都市への人口集中など、経済・開発・環境など様々な側面から考えていく必要があるということもよくわかりました。
そしてもう一方で、この本にはこんなことも記されています。

「生物は感染したウイルスの遺伝子を自らの遺伝子に取り込むことで、突然変異を起こして遺伝子情報を多用に市、進化を促進してきたと考えられる。人も含めて、どんな生物もウイルスに由来する遺伝子が入り込んでいる」と。
胎児の遺伝形質の半分は父親由来のもので、母親にとっては異質な存在。通常なら母体の免疫反応によって、胎児は生きていけないはずです。
しかし拒絶反応を引き起こす母親のリンパ球は一枚の膜につつまれて、胎児の血管にるのが阻止されていることが判っているそうですが、1988年にスウェーデンの研究者が、この膜は体内に住むウイルスによって作られたものであることを突き止めたそうです。
「ウイルスは生命の本質部分を握っている」と。

今回の新型コロナウイルスが私たちに与えている影響は、健康や生命、暮らし・経済・教育・子育て・・・、あらゆる側面から見て本当に深刻です。
でもウイルスと人間との戦いが、ただ人間の生命を奪ってきたということだけではないという事実を考えたとき、今回のこの戦いがいつか、何かしら人間にとってプラスになるものをもたらすことを心から願います。