『〈性〉なる家族』

2021年08月04日

久しぶりに、臨床心理士の信田さよ子さんの著書を読みました。
『〈性〉なる家族』(春秋社)。文字通り家族の中にある「性」の問題、主に性虐待とDVについて、臨床心理士の立場から取り上げた本です。

心に残ったことをいくつか・・・。

◆サルは生まれつき血縁を認識する能力はなく、子育てを通じて親と子の関係が生まれる。そして親子関係は、実際に血縁関係がなくても、子どもの性的成熟に従って交尾を回避するように働く。逆に、その関係の形成ができなければ血縁に関係なく交尾する存在。
つまり育児行動を通じて親しさを形成すること、兄弟姉妹の間にも親しさが形成されることこそが、養育者や同胞からの性虐待を防ぐことにつながるのではないかということ。
逆に言えば、ワンオペ育児に象徴されるような父親の子育ての時間の乏しさが、父による性虐待の促進要因となると言えるのではないか。

◆家族の中の力の弱い者を自分の思い通にしてもいいという考えは、「家父長的信念」とも言える。
家族は力における上下関係によって構成され、優位な存在は劣位の者を支配しても構わない、なぜなら家族を支えるのは自分の経済力なのだから。明治以降脈々と続くこのような考え方は、21世紀になってぐんとソフトに変貌したけれど、現在までその根幹は変わらない。
だから、最も劣位に位置する女児は、優位である男性(父・兄・祖父)に性的に支配される危険性が一番高い。

◆母親から息子への性虐待について。
息子の衣食住の世話をし、身体の管理ができる存在である母は、息子の性器や性的欲望すらも対象に含めるのではないか。彼女の意識ではそれは性的欲望に基づいてはおらず、あくまで世話やケアの延長としての行為であり、虐待しているという意識は父親よりも乏しい。
このことが、被害を自覚した息子たちを更に「加害者の不在」という宙づり状態に陥れるだろう。

・・・私はこの本を読むまで母から息子への性暴力・性虐待というのは、主に男性向けのいやらしいビデオや漫画・小説の中の話だと思っていました。でも性虐待被害者は必ずしも女性だけとは限らないということをこれまでも聞いていたので、一体どういうことなのか、まったく腑に落ちませんでした。
この本を読んで、確かに「管理」「ケア」という名目での「侵害」=虐待はあり得るように思い、初めて理解することができました。

◆避妊の非協力が性的DVの代表であることは、意外と知られていない。

・・・大問題だと思います。

◆DV政策の先進国であるカナダやアメリカでは、まず加害者を逮捕し、拘留・起訴・裁判をほぼ10日以内に終わらせる。重罪以外は加害者プログラム受講が命令される。
プログラム受講をもって刑罰に代替えさせることをダイバージョンシステムというが、日本ではDV防止法制定後20年経つのに、未だにDV加害者プログラムを公的に実施していないのが現状。

・・・加害者プログラムを、日本でも早くつくらなくては💦

◆DV夫に対する最大の武器は軽蔑。「嘲笑せよ、DV夫は妻を侮蔑できない」。

とても興味深いと思ったのは、戦争神経症と家族の中で起きる暴力について丁寧に書かれていて、信田さんがそういうものの考え方をする方なのだと初めて知りました。
以前何冊か読んだ本はアダルトチルドレンとか依存・共依存といった関連の本で、そういう本の中からは信田さんの戦争に対する考え方を読み取ることはできませんでした。
この本は改めてとても新鮮で、心に響きました。