『収容所から来た遺書』

2023年01月12日

公開感動的な本を読みました。
『収容所から来た遺書』(辺見じゅん著 文芸春秋)。今上映中の話題の映画『ラーゲリより愛を込めて』の原作本です。先週映画を観て、原作はどのような作品なんだろうと気になり、さっそく読んだ次第です。

多分実話をもとにした小説だろうと思い、一日で読めるかな?なんて甘い気持ちで読み始めてみましたが、重たいノンフィクションでした。一日ではとても読めるような本ではありませんでした。
戦後シベリアに抑留され、終戦から9年後の昭和29年、収容所の病室で息を引き取った山本幡男さん。
シベリア抑留者たちが最終的に帰還したのは昭和31年の暮れのことで、山本さんの死後2年以上もに亘りその遺書を暗記し、持ち帰り、ご家族へと届けた仲間のみなさん。
仲間のみなさんが何故そこまで頑張ることができたかと言えば、山本さんが深く信頼されていたからこそだったのだと思います。博学で教養があり、先が見えない収容所生活の中でもソ連の新聞から社会情勢をキャッチし、「ダモイ(帰国)は近い」「希望を捨てるな」と仲間を励まし続けた山本さん。
句会をつくることで希望のない収容所生活に輝きを与え、ロシア語を教え、帰国したら日本の社会の中で再び生きていくために学び続けることを大切にした山本さん。
山本さんが書いた俳句・短歌・詩、そして遺書のどれもが端的で美しく、そして力強く、豊かな言葉が使われています。
山本さんの人柄が伝わってきます。
本当にすごい人生を生きた方だと思います。

山本さんの存在や遺書がどういう経過で書籍となり、映画となったのか・・・。とても不思議に思っていましたが、辺見じゅんさんのあとがきを読んでわかりました。
昭和61年に読売新聞社と角川書店が主宰した『昭和の遺書』の募集に山本さんの妻モジミさんが応じたことで、編者として参加していた辺見さんの目に止まったとのことでした。
この本を描いた思いを辺見さんはこう書いています。
「非力もかえりみず偉大なる凡人の生涯、それもシベリアの地で逝った一人の男の肖像を描きたいと思ったのは、その不屈の精神と生命力に感動したからに他ならない。過酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとはどういうことかを、取材しながら教えられた思いでいっぱいである。それと共に山本氏の志を御遺族に伝えようとされた人びとの友情を、何よりも尊く、美しく思ったからであった」。
なるほど!
そこにこの本の読者も、映画を観たひとたちもみんなが感動するのだと思いました。
素晴らしい一冊です。