『妻はサバイバー』

2022年07月16日

数日前に読み終えたのは『妻はサバイバー』(永田豊隆著 朝日新聞出版)でした。
この本も、なかなかスゴイ本でした💦

結婚間もなくして、妻の摂食障害(過食・嘔吐)が発覚。
妻の食べ吐きを支えるため、家計はアップアップ。
それが落ち着いてきたと思うと、今度はアルコール依存症。
どちらの疾患もいのちの危険と隣り合わせの病気です。
妻は闘病生活の中で重篤な身体疾患を繰り返し併発していきました。
そして、40代で若年性認知症に・・・。

著者は時に「君のせいで、僕の人生は台無しだ!」と声を荒げたとの告白も描かれていますが、二人の暮らしはどう考えても本当に壮絶だったであろうとしか思えません。
その気になれば離婚して切り捨ててしまうことだって可能だったでしょうが、妻に寄り添い、支え続けた著者の姿勢にまずは感動を覚えます。
でもこの本はそういう自慢話をしているのでもなく、ただの独白本でもありません。

何故妻が命を賭けて食べ吐きを続けなければならなかったのか。
何故際限なくアルコールを飲み続けたのか。
その背景にあったのは幼少期の被虐待経験と、大人になってからの性暴力被害でした。
妻だって他の人と同じように、ごくごく普通の幸せな生活を送りたかったに違いありません。
にも拘わらず、自分で自分を追い詰めていくような人生を選択せざるを得ない・・・。
決して妻が弱かったとか、だめだったとか、そんなことでは語り得ない問題がそこにあったのです。
そして「自暴自棄」という言葉も当てはまりそうな妻の暮らしは、客観的に見れば「緩慢な自殺を試みていた」かのようにも見えます。
しかし著者は自信をもって、こう言います。
「いや、妻は必死で生きようとしていたのだ」と。

そしてこの本は、精神疾患をめぐるいくつかの問題点を指摘しています。
妻の病気を周囲に打ち明けると、言われるのは「もっと厳しくしないからだ」。
「閉鎖病棟に閉じ込めておけばいい」と、平気で言う人もいるそうです。
病気やけがで医療にかかれば、露骨に嫌な顔をされ、時には治療を拒まれるとも。
精神障がい者のグループホームや依存症のリハビリ施設の建設計画に、「安全が脅かされる」と反対する住民運動が各地で起きています。
ある属性の人たちを危険と決めつけて排除するのは、差別以外の何物でもない。
20年には兵庫県内の精神科病院で看護師らが患者に性行為を強要した疑いで逮捕されたそうで、こういう事件は精神科以外ではありえないと、著者は指摘しています。

日本で最初に精神障がい者の保護について定めたのは、1900(明治33)年施行の精神病者監護法で、精神障がい者を自宅に隔離しました。
戦後1950年に精神衛生法が制定され私宅監置は廃止されましたが、措置入院などの強制入院が明文化されました。
欧米では60年代から病床を減らし、地域社会の中で精神障がい者をケアする方向に転換していましたが、日本では同じ人たちが施設の中に閉じ込められてきました。
一般の人が精神障がい者と出会う機会がなく、だからこそ「何をするのかわからない」と誤ったイメージが広がり、そうした偏見がまた収容主義を下支えする・・・。
日本の精神医療はまだまだそんな状況にあるのだと、著者は指摘しています。

またそういう偏見が精神障がい者自身の中にも内在していて、「あんな人たちと一緒にされたくない」と障がい者自身が思ってしまうことで、治療と向き合うことを妨げてしまう・・・。
そんなこともまた、指摘しています。

精神疾患は決して「甘えている」のではないし、家族が厳しくすれば治るわけでもありません。
自身の病に苦しんでいるけど「何をするかわからない人」ではないし、きちんと治療を受ける権利を持った一人の人間です。
私も社会人になって最初の職場は精神科病棟だったので、精神疾患についてもっともっと理解が広がってほしいと思っています。 
今年から高校の保健体育で、精神疾患についての授業が始まったそうです。
すぐに理解が広がるわけではないでしょうが、期待したいと思います。