『日本が「神の国」だった時代 ー国民学校の教科書を読む―』

2023年01月26日

なかなか凄い本を読みました。
『日本が「神の国」だった時代 ー国民学校の教科書を読む―』(入江曜子著 岩波書店)。

1999年小渕首相主導のもと強行採決により制定された「国旗国歌法」。
2000年森首相の「日本は天皇を中心とした神の国」発言。
2001年「新しい歴史教科書をつくる会」による高校の歴史教科書が文科省検定に合格。
この本は2001年に出版されたものですが、こうした流れの背景に日本の右傾化を危惧して描かれたものと思われます。

こうした時代錯誤歴な流れが作り出されている背景には、「人生の最初の学校教育を『皇民教育』という超国家主義イデオロギーにより、白紙の魂に『刷り込まれた』世代、特に太平洋戦争が始まる1941年(昭和16年)の4月から1945年(昭和20年)までに国民学校で学んだ世代が社会の中枢を占め始めたこと」との指摘。
小渕恵三元首相と森喜朗元首相は1937年生まれ、
「新しい教科書をつくる会」の代表であり執筆者の西尾幹二氏が1935年生まれで、まさにその教育を受けた世代とのことです。

1941~45年は学校の名前も「小学校」から「国民学校」へと名前を変えられました。
小学校の教育は「個人の自立のための心身の養成」でしたが、国民学校の教育は教育勅語の一説「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」に集約される天皇と国家野命令にだけ従う思考しない人間、判断しない人間、心身ともに「天皇に帰一」する人間をつくりだすための「鋳型にはめる」教育だったとのこと。
いかに嵌め込み、いかに刷り込んだか。
著者は1888(明治19)年から1945年まで5回にわたって改訂された各学年の教科書を調査研究し、この本を書いています。
刷り込む内容は「日本は神の国」「天皇は神様の子孫」で、「この国に生まれたことはすばらしいこと」、天皇のために滅私奉公するのは当たり前のこと・・・本当に神様の子孫なのか、何故素晴らしくありがたいのかということには科学的な根拠もなく学問でもなく、ただパブロフの犬のように反射的にそう思う心を身体に叩き込ませる教育。
ただその刷り込み方はドイツの教育にも学び、非常に系統的に情緒的に感情的に子どもの心に訴えかけるような、ある意味科学的な刷り込みをしたのだと感じます。
もしかしたら、統一教会顔負けのマインドコントロールだったのではないでしょうか。
その気持ち悪さにゾッとしてしまった一文をご紹介します。
第5学年の国語の教科書に「十二月八日」というのがあったそうです。もちろん真珠湾攻撃についての文章です。 

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お昼過ぎには、おそれ多くも今日おくだしになった宣戦の大詔が、ラジオを通して奉読された。
(中略)「天祐ヲ保有シ万世一系ノ・・・大日本帝国天皇」と仰せられる国がらの尊さ。この天皇の御ためならばこそ、我々国民は、命をささげ奉るのである。そう思ったとたん、私は、もう何もいらないと思った。そうして、心の底にあった不安は、まるで雲のように消え去ってしまった。
(中略)そうだ。私たち国民は、天皇陛下の大命を奉じて、今こそ新しい国生みのみわざに、はせ参じているのである。勇ましい皇軍はもとより、国全体が、一つの火の玉となって進むときである。私たち少国民も、この光栄ある時代にいきているのである。 
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これが義務教育で使われる教科書で、こうした考えが子どもに押し付けられていた時代があったという事実がとても不快です。実際にそういう教育を受けて育った大人たちが、社会の中心世代になった時改めて日本の右傾化を進めて行ったという事実、それが更に今の戦争する国に向けた動きになっているという事実にしら恐ろしさを感じずにはいられません