『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』

2022年06月29日

『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著 岩波新書)を読みました。
第二次世界大戦に対する認識が、大きく変わった気がします。
20年ほど前『スターリングラード』という映画が公開され、スターリンの町での独ソの激しい攻防が描き出されました。
その映画は今でもはっきりと思い出せる場面もたくさんあるというのに、独ソ戦が何だっったのかということについて何一つ理解できていなかった自分に気が付きました。

本書によると、第二次世界大戦での日本・ソ連・ドイツの死者数は下の表のとおりです。

ソ連の死者数は驚くべき数字です。
何故ここまでの被害が出たのか・・・。

ヒトラーにとってソ連との戦争には、大きく3つの意義がありました。
ヒトラーは「共産主義は未来への途方もない脅威」と捉え、「反社会的犯罪者に等しいボリシェヴィズムを撲滅する」「我々は敵を生かしておくことになる戦争などしない」との言葉を残しています。
そしてこの戦争を、ナチスが「敵」と見做した者を絶滅させる「世界観戦争」と位置付けていました。
同時に「南部ロシアの工業・資源地帯、さらにはコーカサスの油田」を手中に収めることも重要でした。
東方に植民地を広げ、そこにゲルマン人を住まわせ、ドイツ化できない人々をシベリアに追いやる又は奴隷化させることも考えていました。

私は今までずっとヒトラーという人が異常人格の持ち主で、でもものすごいカリスマ性を持っていて、ドイツ中の国民がそれに踊らされて第二次世界大戦という恐ろしい戦争があり、ユダヤ人の大量虐殺があったのだと思い込んでいました。
でもこの本を読むと決してそういうことではなく、いくらヒトラーといえどもヒトラーひとりではその戦争は成り立ち得なかったのだということがわかりました。
経済界の賛同と後押しがあって、成り立っていたのだと知りました。

ヒトラーが政権を握り、最初に実施した政策は軍需産業の強化と軍備拡張でした。
その政策によってあっという間に失業者が減りましたが、それでもまだ人が足りなくて離農が促進されてしまい、今度は食料自給の困難に陥っていきました。
また軍需産業のために資源を外国から購入しなければならず、今度は外貨の不足に陥っていきました。
第一次世界大戦中に国民の不満が広がり、革命が勃発し、その結果敗戦してしまったという苦い教訓から、ヒトラーは国民の不満を助長しないように、外貨不足に陥った中でもバターや衣類の輸入に努め、国民の不満が広がらないように努力を続けてきました。
そしてヒトラー率いるナチス・ドイツが選んだのは、「他国の併合による資源や外貨の獲得、占領した国の住民の強制労働により、ドイツ国民に負担をかけない形で軍拡経済を維持」することでした。
そういうナチス・ドイツにとってコーカサス地方の豊かな資源と豊かな農地はどんなに魅力的だったことでしょう。
こうした目的を持った戦争だったのでナチス・ドイツは負けるわけにはいかなかったし、戦況が傾いてもヒトラーは一歩も引くわけにはいきませんでした。

そしてボルシェヴィズムの撲滅を目指した戦いは敵に対する容赦のない戦争で、ナチス・ドイツはソ連軍と徹底的に戦ったというだけでなく捕虜の虐殺とジェノサイドを繰り返しました。
ナチス・ドイツが毒ガスでユダヤ人を大量虐殺したことはあまりにも有名ですが、最初からユダヤ人を殺してしまおうと思っていたわけではないこともこの本で学びました。
当初は捕虜を銃殺していたのですが、毒ガスで殺した方が手っ取り早く大量に殺すことができるので毒ガスを使い始めたそうです。
そしてその手法をユダヤ人虐殺に応用するようになっていき、やがて本格手にな虐殺の手段としてアウシュヴィッツなどの強制収容所にガス室を作っていったというのが経緯のようです。
元々ナチス・ドイツが考えていたことは「ユダヤ人より解放されたドイツ」を実現することで、当初は国外排除の政策を進めていたそうです。
公職追放や市民権の剥奪、経済的な締めつけによって、ユダヤ人が自らドイツを去っていくように仕向けたとのことです。
ところがユダヤ人の貧困層・高齢層は国外に逃れようとはせず、ナチスの眼からすれば最も残ってほしくない分子が滞留。
しかも1930年代後半からの領土拡張により、ナチス・ドイツの支配下にあるユダヤ人の数は急増。
開戦と占領地の拡張はこの傾向に更に拍車をかけました。ユダヤ人の海外移住往路が遮断されたためでした。
そしてそのユダヤ人を殺すしかなくなっていったということなのだと思います。

もう一つ理解できたのは、北方領土の問題です。
特に歯舞・色丹など、1945年8月15日を過ぎてロシアが不当に攻撃し、今も不当に占拠し続けている島々。
何故それが許されて、何故連合国は何も言わなかったのか、不思議でたまりませんでしたが、この本を読んでその理由がわかりました。
第二次世界大戦、ヨーロッパでの主たる戦場はソ連で、ソ連は対独戦争を一手に引き受け戦った国だったので、アメリカもイギリスもソ連に強く出ることはできなかったし、ソ連はこの戦争を通して領土拡大を望んだ・・・。
それが今なお続く北方領土問題につながっているのだとわかりました。

歴史を学ぶことは非常に大切なことだと思っています。
同じ轍を2度と踏まないために、今を生きる私たちはどうあるべきなのか、それを知ることの大切さを思っています。