『誰もボクを見ていない』

今日読んだのは、『誰もボクを見ていない』（山寺　香　毎日新聞記者　ポプラ社）でした。

副題には「なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」とあります。
2014年に埼玉県川口市で起きた老夫婦殺害事件。
容疑者として逮捕されたのは17歳の孫で、当初その動機は「金銭目的」と報道されました。しかし、

「法廷で明らかになった少年の生い立ちは常軌を逸した過酷なものであり、中でも驚愕した事実は少年が小学5年から義務教育を受けていなかったにも関わらず、行政機関でも周囲の大人も少年を救い出すことができないまま事件に追い込まれていったことだった。さらに少年は住民票を残したまま転居を繰り返し、行政が居場所を把握できない『居場所不明児童』だったのだ」。
「少年は小学5年から中学2年まで、母親と義父に連れられ学校にも通わせてもらえないまま、ラブホテルを転々としたり野宿をしたりして生活していた。さらに、少年は両親から度重なる虐待を受け、「生活費がないのはお前のせいだ」と責め立てられて親戚への金の無心を繰り返しさせられていたという。事件当日も、母親から必ずお金を得てくるようにきつく命じられ、祖父母宅に一人で向かわされ、借金を断られて事件を起こした」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（原文引用）

少年が置かれた環境は、読めば読むほど、本当に過酷極まりないと言うしかない・・・、そんな暮らしでした。
男性に寄生し、男性が働いて持ち帰るお金を、何の計画性もないまま、あればあるだけゲームセンターやパチンコに散財してしまう母親。
義父と3人のラブホテルでの生活で、義父と母は性交渉を少年に見せつけ、義父はその性器を少年の口に押し込もうとまでしました。
義父の暴力で、少年は前歯を数本失いました。
そんな虐待を受ける少年を目の当たりにしながら、母親は時には笑って、見ているだけでした。
そんな暮らしの中で、母親は赤ちゃんを欲しがりました。
少年は自分たちの暮らしさえままならないのに、赤ん坊なんて絶対に無理だと反対しましたが、母親は女の子を出産しました。
女の子は無戸籍児となりました。
そしてその世話は少年に押し付けられました。
ミルクを買うお金もない中で、少年は牛乳屋さんから牛乳を盗んで妹に飲ませました。
いくら働いても妻がすべて散財してしまう生活に疲れ果てた義父は、いつか消えてしまいました。
義父が消えると、母親は今度は少年に義父の役割・・・、「お金を稼いで持ってくる」という役割を求めました。
自分は働きもせず、お金を持って帰らない少年を責め立てた・・・。

きっと母親も、何らかの支援が必要な人だったのだと思います。
こんな過酷な人生を生きてきた少年を、誰も救うことができなかった・・・。
言葉がありません。
本の帯には「この罪は、本当は誰のものなのか？」とありますが、本当に誰のものなのでしょう。

少年の手記を読むと、小学５年生までしか義務教育を受けていないにもかかわらず冷静で客観的に考える力があり、自分の考えを率直に伝える力もある人だということが判ります。
その手記の中で、「社会に臨むことは何ですか？」という問いに答えて、こんな風に少年は書いています。

「みんながみんな『こんな社会になってくれ』と望むだけで、誰もそうしようと行動しなければ意味がありません。自然現象でそんな社会が手に入れば苦労はしないと思います。
だから、できる範囲で地震の理想の社会と煮た行動をしていただければ、と思います。
平等な社会を望むなら普段から平等に物事や人を扱ってください。
差別のない社会を望むなら普段から差別をせず人を見つめてください。
貧困のない社会を望むなら普段からそのような人を見つけたら助けてください。
そうすれば社会全体が理想に近づくのには時間がかかっても、自身の周囲だけは理想の社会になると思います。」

そんな行動をしていきたいと思います。
良い本でした。