劇団コーロ『眠っているウサギ』

2023年05月13日

劇団コーロ公演『眠っているウサギ』(くるみざわしん作 高橋正徳演出)を観ました。

高校生がホームレスを襲撃した事件を基に描いた作品と聞いていたので、発想の貧困な私は荒々しい高校生の攻撃的な場面が描写されるのかと思っていました。
ホームレスを死なせてしまった高校生が興奮して、恐らく自分への怒りから教育者や同級生に暴力をふるう場面も少しだけありました。が、なぜ彼はホームレスを死なせてしまったのか、その背景に何があったのか、なぜ周囲の人々は彼を独りにしてしまったのか・・・。そういったところに深く焦点が当てられていました。

同級生にホームレスを殴るように言ったのにその同級生は逃げてしまい、それを見たホームレスは彼に「なんだ、おまえも独りぼっちじゃないか」と。
「おまえは」ではなく「お前も」とのその言葉は彼の琴線に触れ、彼を逆上させたのでした。
「ホームレスなんかと一緒にするな!」と。
その背景にあるのは、「ホームレスは怠けている人」という下に見る意識。

ウサギとカメの物語では余裕で勝てると思ったウサギは途中で居眠りをして、目が覚めたときにはのろまなカメがゴールをしています。能力があって、当然勝てるはずの勝負に「サボっていた」「怠けていた」から負けたとされるウサギ。
でも本当にウサギは怠けていたのでしょうか。もしかしたら病気だったのかもしれないし、お腹がすいていたのかもしれないし、生理痛だったのかもしれない。本当のところはウサギに聞いてみないとわからない。

自分の競争に夢中になって、眠っているウサギに大丈夫かと声をかけることもなくその脇を走り過ぎていくカメ。
本当にそれで良いのか?
そもそもウサギとカメの間には大きな差があるのに同じ競争を無理やりさせて、それで良いのか?
そんなことを深く問いかける舞台でした。


アフタートークは作者のくるみざわしんさん、演出の高橋正徳さん、「野宿者ネットワーク」代表の生田武志さんでした。
この作品は中学生や高校生に観てもらうためにつくった作品とのことでした。
舞台の中でこうした悲しい事件を二度と繰り返すことのないようにと、高校生が校内にサークルをつくり、ホームレスに話をしに来てほしいと訴える場面がありました。ホームレスもそれに応えて、頷く場面です。
実は大阪ではそういう活動が実際に行われているという事実を、アフタートークの中で知りました。
凄い活動だと思います。

2012年に大阪の梅田で起きたホームレス襲撃事件の裁判の傍聴に通った生田さんからは、加害者の少年たちは成長の最中にネグレクトや虐待を受けていて、「自分の居場所がない」少年たちだったと話してくれました。
また生田さんたちの活動に対して寄せられた中学生の感想文の中に、こんな一文があったと紹介してくださいました。
「家も仕事もあるのに居場所がない人がホームレスを襲う。HOUSEはあるけどHOMEがない」。
一方ホームレスの人々はHOUSEはなくても協力し合って暮らしていて、そこに居場所HOMEを形成しているというお話も印象的でした。

この競争社会を椅子取りゲームになぞらえて、椅子が取れないのは個人の努力の問題ではなく、そもそも人の数だけ椅子がないという構造の問題。
競争をやめるには椅子を奪い合うのではなく分け合うか、そうでなければゲームから降りるしかない。
それからホームレスもそれぞれに名前があり、そこに至った背景があるとのお話も当たり前の話ではありますが、心に残りました。

舞台の中で殺されたホームレスは住宅街を歩くのが好きだったという設定です。その景色を見ることに、何かその人なりの思いがあるのでしょう。
しかし日ごろからホームレスに石を投げ、襲撃していた少年は、自分の家の近くをそのホームレスが歩いているのを見かけたことで「反撃しに来た」のだと思い込み、「やられる前にやるしかない」と思っていたということも少年の口から語られます。
お互いを知らないから疑心暗鬼になって、攻撃的になっていく・・・。
そうしたことを考えると、大阪の高校でホームレスの人々の語りを聞くという取り組みはすごく意義のある活動だと感じます。

充実した一日でした。