医師の眼から見た「慰安婦」問題

2022年08月03日

平和のための埼玉の戦争展が今日から始まりました。

午前中のピーストーク、ダニー・ネフセタイさんの「気候危機問題の盲点 軍隊と環境破壊を考える」はほかの会議が重なり、参加を断念。
午後のピーストークは医療生協さいたま理事長 雪田慎二医師の「コロナ禍で考える保健衛生と戦争・平和」に参加しました。

雪田慎二さんは偶然にも同じ名字で、我が家でちょくちょく見かける人でもあります。
この数年「慰安婦」関連の本をよく読んでいるのを見かけて、なんでそこに行きついたのかなぁとぼんやり思っていましたが、今日のトークは「医師の眼から見た慰安婦問題」と言い換えても良いかと感じるお話でした。

梅毒は今はペニシリン系抗生剤を使用することにより、早期治療で治る病気です。
しかし治療しなければ感染後数年で全身の臓器が侵され、認知症・性格変化などの進行性まひや歩行障害・感覚障害などの脊髄の病変を起こし、死に至る病です。
驚くことに、現代の日本でも増えている病気とのことです。
日本には1500年代、フランシスコ・ザビエルの来日や鉄砲伝来よりも早い時期に持ち込まれました。
日本が列強から開国を迫られるようになったころから梅毒対策は大きな課題となり、大政奉還前の1867年には日本で最初の梅毒病院が設立されるほどでした。
旧日本軍が慰安所を作った目的は①戦地での強姦の防止、②性病の蔓延の防止、③日本軍将兵に現地での性的慰安を提供するため、④防諜=軍の秘密が漏れないようにするためでした。
しかし①強姦防止②性病蔓延防止には役に立たなかったことが分かっています。
それでもなぜ慰安所がつくられ続けたかと言うと、
①兵士のストレスを軽減しないと、そのストレスが上官に向かって暴発する可能性があり、軍はそれを恐れていた。
②日本軍には休暇制度がほとんどなく(欧米にはあった!)、一旦戦場に送られるといつ休暇がもらえるか、いつ帰還できるかわからず、ストレスが極端に溜まっていく状況だった。
③軍隊内で兵士に人権がなく、私的制裁・暴力が横行し、厳しい抑圧の下に置かれていたこともストレスの一員だった。
こうしたストレスを発散させるために性行為をさせるというのは、非常に安直な考えのように思いますが、それが現実だったのでしょう💦

「慰安婦」問題は歴史修正主義者らにより、様々な論争が巻き起こされています。
雪田氏はこれを考えるにあたり、「軍構造が持つ普遍性」と「日本軍の特殊性」の二つの側面から考える必要があると言っていました。
「軍構造が持つ普遍性」とは、軍隊の中で兵士たちが共有できたのは「男らしさ」という資質であり、男性性を強調することが攻撃的なふるまいを呼び込む。
その背景には「男は女を買うもの」という価値観もあり・・・。
「日本軍の特殊性」とは、日本軍は「性欲を抑え込まない」という方針を取ったということです。
慰安婦制度を採用し、性病への懸念は医学的に対応するとしました。
そうした日本軍の方針の下で、多くの女性が犠牲になっていきました。
多くの医師が「軍医」として軍慰安所の運営にかかわりましたが、その事実に対する自覚と反省は今のところなく、それは今後の医学界の在り方を考える上で非常に重要なことではないかとの問題提起がされました。

橋下徹氏は「慰安婦」問題について「どこの国でもやっていた」と発言しました。
確かにかつては欧米諸国でも同様のことをしていたそうですが、第二次世界大戦当時の米軍は「新世紀の盟主アメリカにふさわしく振舞え」と説き、性産業を廃す一方で健全な娯楽を推奨していたそうです。
この話は、歴史修正主義者への反論としてとても重要だと思います。
それから世界史的に見ると、強姦は最も安上がりで効果的な武器とされてきました。
今日でも、多くのウクライナ女性たちがロシア兵によって強姦されていると報道されています。
強姦は、自分の妻や娘や女性たち全体を自らのものであると考える(敵側の)男性たちに対する最大の攻撃となり得るからであり、「女性は男性の所有物である」との考え方との二重のジェンダー暴力が背景にあります。
またフェミニスト国際関係論のシンシア・エンロ―によれば、軍隊は
①商業化された性的サービスを男性に提供する女性
②軍人家族の中で妻として貞操を守る女性
③国防を請け負う企業で働く女性(経済的保障やプライドを見出す)
④国軍の任務に就く女性の権利を推進するフェミニスト・ロビイストとして活躍する民間人
こういう女性に軍隊は頼っているとのお話。
ここに挙げたそれぞれの女性たちは共通の女性性・軍事化で結ばれた同志とは考えず、逆に脅かされ分断されています。
女性兵士・軍隊看護師・軍人の妻・売春婦に上下関係を作り、距離を感じさせています。
女性たちが軍事化され、分断されることによって男性らしさの特権化された地位が維持される・・・。
そんな仕組みになっているというようなお話でした。

ピーストーク、勉強になりました(⋈◍>◡<◍)。✧♡