「永遠の0」が描いたもの、描かなかったもの

2022年05月23日

日本共産党吉川市議員団が毎週金曜日に行っている学習会。
先週から学習し始めたのは『知っていますか?日本の戦争』(久保田貢著 新日本出版社)です。

著者の久保田さんは愛知県立大学の教育学の教員とのことです。
学生に、アジア太平洋戦争について「どこの国と戦争をしたのか?」と聞いても、「アメリカ」とは答えられてもその他にはどこの国と戦争したのかわからない・・・。
敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が日本に入ってきたけれど、撤退したのはいつかと聞いてもほとんど答えられない・・・。
サンフランシスコ講和条約はどこの国と講和し、どんな講和だったのかと聞くと、もう答えられない・・・。
そうした体験を重ねる中で、「ここがわからないから、誤解が生まれる」「これが理解できていれば、間違った情報に惑わされることはないのに」と感じることがたくさんあり、そういう思いからこの本を書かれたそうです。
とても読みやすく、わかりやすく、学習にはぴったりの本です。
19のテーマに沿って書かれていますが、どこから読んでも大丈夫と言うことです。これからしばらく、興味がわいたところから順番にこの本を読むことになりました。

今回私たちが選んだのは「永遠の0が描いたもの、描かなかったもの」というテーマです。
百田百樹さん原作、山崎貴さん監督でつくられた映画「永遠の0」。2013~14年にかけてヒットしました。
特攻作戦で死んでいく若者を、V6の岡田准一さんや今は亡き三浦春馬さんが熱演しました。
岡田准一さんが演じたのは「生きたい」「家族のもとに還りたい」と思いつつ、「生き残ろう」とすることで当時は「臆病者」と見なされ、罵られていました。
「お国のために死ぬ」「天皇のために死ぬ」のが当たり前だった時代。敵に打撃を与えるために、爆弾とともに体当たりをして自分の命を失う「特攻作戦」が特に1944年、終戦の前年辺りから激しくなっていきました。
いのちを投げ出す若者たちの姿が、勇ましく、かっこよく描かれている映画です。
しかし、この映画には描いていないものがあります。
例えば・・・。
連合軍は人権にもなるべく気を配り、食糧・衣料・医療体制などは万全に準備して進軍していたそうです。
しかし日本は物資に乏しく、補給も不十分。食糧などは「現地調達」する方針だったそうです。
アメリカと開戦した1941年当時、日本の国民総生産はアメリカの10分のⅠにも届かず、軍事費は半分。1944年になると4分の1以下となり、国力・軍の体制どちらを見ても勝敗の行方は歴然としていたそうです。
それでも「日本精神」「大和魂」によって勝てると国民に教え込み、「精神主義」で最後の一兵まで戦うことを強要しました。

「特攻」は正規軍による組織的な作戦であり、必ず兵が死ぬことを前提にされていました。そんな作戦と言うのは、世界にも例がないそうです。なぜそんな作戦が恒常化したかと言えば絶望的な状況の中で少しでも戦果を挙げる可能性を求め、そしてまた「軍人に意義ある死に場所を」と考えるようになっていったと・・・。
航空特攻作戦だけでも、判明しているだけでも3913名が亡くなっているそうです。

先陣訓に「生きて虜囚の辱めを受けず」とあり、捕虜になることは恥ずかしいことと教え込まれていたため、補給される食糧がなくても、傷や病を治療することができなか打ても投降することもできませんでした。
1937年、日中戦争以降の日本軍の死者は約230万人。
半数以上は餓死・病死だと言われています。そして日本兵は敵や味方の人肉を食べたと言います。投降することも許されない極限状態の中で、日本軍はそこまで追い詰められていました。

人間が消耗品のように扱われていたにもかかわらず、彼らは国家のために命を捨てた、だから今の日本があると、その行動を美化する声があります。そのような単純な話でよいのでしょうか?そもそも国家は個人(国民)があって成り立つものです。個人の人権をないがしろにする国家など、ありえません。○○のために個人を捨てたと美化する意見は危険でもあります。ふたたび「個人を捨てよ」という空気が強まる恐れがあるからです。
「永遠の0」は、そのような重要な問題を意図的に隠した作品でもありました。最後、主人公の遺族や友人の感情に共感させる場面をつくりながら、「お国のために自らを犠牲にして亡くなった人々がいたから、今の平和な日本がある」というイメージを強調する効果を狙っています。そこでは述べてきたような特攻作戦の異常さ、日本軍の失敗や大敗を見えなくしています。

と、久保田さんは書いています。

率直に言って、二人の息子を持つ私としては戦争で死なせるために子どもを育てた覚えはないし、絶対にそんな死に方はさせたくありません。そして、ほとんどの人が同じように思うと思います。
それでも最近、「愛国」というような言葉が盛んに言われるようになり、「個人」よりも「国」が優先されるような風潮が生まれつつあるように感じ、とても怖いと感じています。
同じ轍を踏まないように、しっかりと勉強しなくてはと思います。
学習会がとても楽しみです。