『人類の歴史をつくった17の大発見』

2022年01月23日

めちゃくちゃ面白い本を読みました。
『人類の歴史をつくった17の大発見』(河出書房新社 コーディー・キャシディー著)。

300万年まえに産まれたアウストラロピテクスの≪ママ≫。
二本足歩行を始めて間もないころの赤ん坊は、今と同じく母親にしがみつくことさえできない無力な存在でした。
当時、アウストラロピテクスは食物連鎖の中でも低い位置にあり、大型ネコ科動物など夜行性の捕食動物の餌食になっていました。
我が子の命を守り、自身の食糧調達を安全に行うために≪ママ≫が考え出したのは「おんぶ紐(スリング)」でした。
おんぶ紐が普及した直後から、私たちの祖先の脳は爆発的に大きくなったそうです。
直立歩行を始めた人類の骨盤は小さくなり、赤ちゃんは小さな頭で生まれるしかなく、だからこそ人類の赤ちゃんは無力な期間が非常に長いのです。
しかしおんぶ紐の普及によって赤ちゃんは身の安全が保障され、その無力な期間に脳の何百兆個もの脳のシナプスをつくることができるようになり、脳が爆発的に大きくなったと考えられているそうです。

ダーウィンは火を使いこなせるようになったのが人類最大の偉業と語ったそうですが、その偉業を果たしたのは190万年前、東アフリカのホモ・ハビリスでした。
ホモ・ハビリスは昼間は地面を歩くが夜は樹上で眠り、まだ被毛に覆われていたそうです。
石器を作る技術をすでに身につけていました。
石器を作る中で、石と石とを打ち合わせると発火することがあると当時のホモ・ハビリスは気づいていました。
その体験の中で著者が≪マルティーヌ≫と名付けたある女性は、「たいていは火が出ないのはどうしてか」を見抜き、黄鉄鉱・白鉄鉱が火をおこすことを発見しました。
火を手に入れて食料を加熱することができるようになると、効果的にエネルギーを摂取できるようになりました。
火を通さずに何かを食べる時と比べて、食事に費やす時間が格段に短くなり、その分の時間を採集に充てることができるようになりました。
火によって捕食動物から身を守ることができるようになり、ヒトは樹上のねぐらを捨てました。
火によって夜間に体を温めるための被毛が不要となりました。
更に、火のそばで暮らすことにより優しい気持ちが芽生え、集団との良い関係を意識して暮らすようになっていきました。

6000年近く前、当時すでに家畜化されていた馬の顎に頭絡をかけ、馬に乗ることを思いついた≪ナポレオン≫。
この思い付きによって人間は輸送手段とスピードを手に入れました。
時を同じくして、村々に念入りな防御壁が築かれるようになっていきました。
馬を使うことによって強奪や戦いが生まれ、階級・地位・階層社会が生まれたのでした。

こんな感じで「はじめて衣服を身に着けたのは誰?」「はじめて石鹸を使ったのは誰?」「はじめて天然痘にかかったのは誰?」といった具合にその人に著者が名前を付け、その時期や場所、時代背景などが描かれていきます。
考古学・言語学・歴史学・遺伝子学、そのほかの様々な学問との融合で、人類に多大な影響を与えた歴史的発明・発見を紐解く本です。
人類が300万年もの時間をかけて「今」を培ってきたことがよくわかります。
発明・発見は決して現代人だけのものではなく、パソコンを発明したり宇宙開発するようなことだけが偉大なのではなく、抱っこ紐の発見なくして人類の発展はなく、石鹸を発見してなかったらもしかしたら人類は感染症に滅ぼされていたかもしれません。
人類の発展の歴史を改めて思い、それを支えてきた地球を大切にしたいと改めて思う、そんな一冊でした。

同時に、ちょっとショックだったこともいくつか書かれていました。
一番心に残ったのは石鹸が発明された4500年前のイラク。
『古代メソポタミアの日常生活』の著者であり、メソポタミア研究で知られる研究者によるとその時代は何の救いもないほどの
男性優位社会だったそうです。
「家では父親が家長として家族を支配下におき、父親が亡くなるか娘が嫁ぐかするまでそれが続く」。
「女性が結婚するのは10代の場合もあれば、もっと早い場合もあった」。
「結婚は父親と義理の父親のあいだの契約の一種だった。・・・花嫁は花婿のものではなく嫁ぎ先のものなので、夫が死ねば妻はその兄弟と結婚するのが普通だった。シュメールの女性には自立できる見込みがなきに等しかった」。
癒しの神グラを讃える歌の中には、当時の女性の人生がこんな風に表現されているそうです。

「私は娘
 私は花嫁
 私は妻
 私は家政婦」

ジェンダー不平等の歴史の重さに、改めて暗澹とする思いです。