介護保険制度の持続可能性とは?

2021年05月09日

1週間前の話になりますが、5月2日(日)、市民にやさしいあったか吉川市政をめざす会の学習会が開催されました。
テーマは「持続可能な社会保障制度とは?」、講師はなんと私でしたΣ(・ω・ノ)ノ!

介護保険制度がスタートして21年。
私は1998年に行われた第一回のケアマネ資格試験を受験し、ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を取りました。次の年から研修が始まったので、個人的には23年にわたり介護保険制度を私なりに見つめてきました。
ケアマネとして、訪問看護という事業者の一員の立場として、それから母や伯母・叔母の介護者として、それから一人の議員として。
そういう立場から見てきたことをお話しました。

介護保険料はなぜ高い?

3年ごとの介護保険制度の見直しとともに介護保険料の見直しも行われ、介護保険料は見直しのたびに高くなってきています。2000年の介護保険制度スタート時の吉川市の介護保険料(基準額)は37,044円(月額3,087円)でしたが、2018年~2023年までの介護保険料は58,128円(月額4,844円)です。そして第9期(2024~2026年)の介護保険料は75,444円(月額6,287円)との予測が示されています。

日本共産党吉川市議員団が行った昨秋の市民アンケートでも、最も強い要望は国民健康保険税と介護保険料の引き下げでした。年金が上がらない仕組みがつくられ、消費税などの負担も増えている中で、介護保険料は保険料を支払う65歳以上の高齢者にとってとても重い負担となっています。
なぜ介護保険料が高いのか、それは介護保険制度の財源の構造に問題があるからだと思います。

どういうことかと言うと、介護保険の財源は公費が50%(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)、保険料が50%と介護保険法によって決められているのです。なので高齢者が増え、介護保険を利用する人が増えれば自ずと介護保険料が高くなる仕組みがはじめからできているのです。
しかも25%のうちの5%は「調整交付金」と言って、人口が少なく高齢化率の高い地域は介護保険財政が苦しいので5%よりも高く交付され、吉川市のように高齢化も進んでなく、人口もそれなりの地域には交付されない仕組みになっています。国から満額の25%が支払われているわけではないのです。

介護保険料を引き下げるためには、この財源構造を変えることが必要だと思います。公費の投入割合を60%、70%としなくては引き下げることはできないと思います。

国が力を入れていることは介護予防(要介護状態になる人を減らすこと)で、それ自体は決して悪いことではありません。誰だっていつまでも元気でいたいものだし、できればぴんぴんころりと逝きたい。介護を受けながら高齢期を過ごしたい人は誰もいないと思いますし、現に今、元気な高齢者が増えているという実感もあります。

ただ、介護給付費を減らすための政策には疑問があります。

介護給付費抑制のための施策

介護給付費を抑制するために国が最初に行ったのは、当時もっとも多かった「要介護1」を減らすことでした。
要介護1というのは、食事や排泄など身の回りのことはたいてい自分でこなせるけれども、日常生活の様々な部分で見守りやちょっとしたサポートが必要というような状態です。
高齢者の方々は、こうした軽度の介護が必要な状況を長く維持しながら終末を迎えていく人がとても多いのです。
その方々が使うサービスを抑制することで、介護給付費を抑制しようというのがこの施策の目的です。
具体的に言うと2006年の見直しの時に「要支援2」なるものを創設し、「要介護1」の方の中で認知症の人と「半年以内に悪化する状態が不安定(がん末期・神経難病・急性の状態など)な人」を除いて「要支援2」へ移行させたのでした。
「要介護1」と「要支援2」では日常生活の様子にはほとんど変わりはなく、ただ認知症があるかどうか、病状が安定しているか不安定かという違いだけで、ランク分けをしたわけです。
要介護1の方が使える介護サービスの限度額は16万5,800円、要支援2は6万1,500円です。 
その結果、 2005年4月の「要介護1」認定者数は132万78人(認定者の32.4%) 2010年4月の「要介護1」認定者数は65万3,899人(認定者の13.4%)で、介護給付費は大きな節約ができたわけです。
でもそれって、ちょっとした見守りがあれば十分に自立した生活を送ることができた方々の生活を圧迫し、重度化を招くような結果には繋がっていないでしょうか。

介護給付費の抑制のために、国が次に行ったのは介護予防訪問介護(ヘルパー)・介護予防通所介護(デイサービス)を「総合事業」に移行したことでした。
要支援の方々が利用する訪問看護とデイサービスに、「人員基準を緩和したサービス」や「住民主体によるサービス」を導入しました。それまで、要支援1・2の介護サービス利用者の43.7%が防訪問介護(ヘルパー)を利用し、42%が介護予防通所介護を利用していました。「総合事業」に移行することで介護保険サービスから外れた人は120万人 で、費用は介護保険サービスの約半分の2,800億円 です。報酬が低いため参入しない事業者も多く、サービス利用は大きく減少しました。
でもそれが、本当に正しいことなのでしょうか?
ちょっとした支援を受ければ自宅で自立した生活を送ることができた方々へのサービスが、資格のない方々や地域のボランティアに委ねられたのです。それで本当に、その方々の安心・安全な暮らしが保障されたのでしょうか。
因みに、吉川市では基準緩和型のサービスや住民主体のサービスは実施されていません。介護事業所の資格を持った介護職員の方々がサービス提供をしています。
この点は救いだと思っています。

更に国が行った施策は、特別養護老人ホームへの入所を要介護1から要介護3へとハードルを高くしたことでした。
2014年の時点で入所者の3%が要介護1、9%が要介護2でした。当時入所していた方々はそのまま入所を継続することができましたが、同じ介護度の待機者は行き場を失いました。
この施策によって、特養の待機者は大きく減りました。しかし、それまでなら入所して安心・安全な生活を得られたような方々が、施設入所から締め出されたと思います。要介護1~2でも、認知症・知的障害・精神障害等の方、被虐待が疑われる方、独居、老々世帯等在宅での介護が困難な状態が見受けられる場合は特例として入所が認められることになっています。
吉川市ではこのような条件に該当する方は、申請すれば要介護1~2でも入所することができています。
でも岐阜に住む私の母は、一人暮らしでしたが要介護1~2では申請することすらできませんでした。昨年晴れて?要介護3になったので特養に申し込みましたが、「要介護4~5でなければ、入所はできない」と言われました。
全国的に見れば、軽度の方々の安心・安全な暮らしは阻害されているのだと思います。

2015年から、特養・老健施設の入所費用にベッド代と食費の負担が加えられました。

入所費用そのものは所得によって減額措置がありますが、ベッド代と食費は減額されません。私の母も老健施設に入っていますが、ギリギリのところで課税される年金額ですので減額措置は受けられず、毎月この程度の費用を支払っています。
今は単身なのでこの金額でもなんとか支払えますが、もし父が生きていて、父の生活も支えながらこの費用を支払うとすると、とても無理な金額です。
施設入所を躊躇うには十分な、非常に世知辛い費用設定だと思います。

要介護状態にならないために大切なことは?

吉川市では いきいき運動教室(65歳以上の方方)、 はつらつ運動教室(概ね75歳以上の生活機能の低下がみられる方)、  なまらん体操(地域における健康づくり事業)、  介護支援ボランティア制度(ボランティア活動を通じた社会参加)などの介護予防のための事業が取り組まれています。今年度からはフレイル予防にも力を入れるとの方針です。
フレイル予防とは、健康な高齢者が介護が必要な状態に変わっていくときの変化「虚弱」になることを予防するという考え方です。フレイルを予防するために大切なことは、「社会とのかかわり」「栄養」「運動」であることが既に科学的に明らかにされています。

フレイルの最初に訪れるのは、社会との繋がりの変化だということも明らかにされています。つまり、高齢者の社会参加を保障することこそ、フレイル予防・介護予防にとって明らかだということが既にわかっているのです。

では、高齢者の社会参加を維持するために必要な施策とはどのようなことなのでしょうか?
高齢難聴の方々が他者とのコミュニケーションを諦めないように、補聴器を購入する費用を助成すること。
これまで続けてきたその人なりの社会参加を保障するために、運転免許証を返納してもその人らしく暮らし続けられるように、気軽に外出できる公共交通網を整備すること。
そして健康寿命日本一の山梨県の経験から、「健康寿命を延ばすのは運動よりも読書」と言われています。高齢者の読書環境を整備することもまた、重要だと考えています。

介護保険制度が目指したものは何だったのか?

 「介護の社会化」を謳い、2000年に創設された介護保険制度 「介護の社会化」は実現したのでしょうか? 介護職員の確保はできたのか? 参入事業者が増え、介護サービスの充実はできたのでしょうか?
 介護を担う家族は、介護から解放されたのでしょうか?
 介護離職は減ったのでしょうか?
 介護殺人は減ったのでしょうか? 

まず介護職員の確保をみると、特に訪問介護で職員が高齢化していることがわかります。
背景には、介護職員の給与の低さがあると思われます。

なぜこんな状況かと言えば、介護報酬に問題があります。

この20年、利用者は重度化しているのに報酬はほとんどアップしていない、これが介護保険の現実です。

そして、介護を担う家族が介護から解放されたのか、介護離職は減ったのかという視点で見ると、これまたそうでもありません。むしろ増えているのが現実です。

そして残念なことに、介護殺人も全く減ってはいません。

こうした現実を直視しながら、それでも介護保険制度を持続可能なものとするために必要なことは何でしょう?
いたずらに介護保険料ばかりを高くすれば、払いきれない人が増えていき、制度の持続が困難になることは目に見えていると感じます。
それなら、何ができるのか?

やはりどう考えても、まずは介護保険財政への公費投入割合を変えて誰もが支払える範囲の保険料に切り替えること、
介護を仕事にしたい人々が、当たり前に普通に暮らしていけるような賃金台形をつくること、使いたいときに使いたいサービスが気軽に使える制度へと転換していくこと。
求められているものは、とても大きいと実感しています💕