「にも包括」って何?

2023年12月15日

私が発行している「つわぶき便り」9月議会報告号に一般質問した「にも包括」について書いたところ、関係団体のみなさんから「聞いたことがない」「説明してほしい」と声をかけていただき、お話をしにお邪魔させていただきました。
簡単にご紹介します。

「にも包括」とは?

「地域包括ケアシステム」とは、「年をとっても、障害を負っても、可能な限り住み慣れた地域や自宅で日常生活を送ることができるように、地域における『住まい』『医療』『介護』『予防』『生活支援』の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築しようという取り組み」を言います。
「にも包括」とは、精神障害者に対して「長期入院」という施策から「地域移行」という施策への転換をより一層進めようとするものです。2017年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書 には、「精神障害者が地域の一員として、安心して自分らしい暮らしができるよう医療・障害福祉・介護・社会参加・住まい・地域の助け合い・教育が包括的に確保された『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム』の構築を目指す」と記されています。

異常な長期入院と身体拘束

こうしたことが言われるようになった背景には、日本の精神科医療の様々な問題があります。

先進38カ国にある精神科の入院ベッド数のうち日本だけで4割近くを占めていて、異常なベッド数の多さです。
日本の精神医療が入院中心に展開されていることがこの数字を見ただけでも明らかで、全国で約26万人が入院し、10年以上の長期入院患者は約4万6千人もいると言われています。
そして、先進諸国と比べて入院期間も異常に長いのです。
こうした日本の精神医療の状況が精神障害者を社会から隔絶し、孤立させてしまっています。

そして更に身体拘束の問題です。
杏林大学教授の長谷川利夫さんの調べによると、身体拘束を継続的に受ける患者(768人)の約67%が調査時点で1か月以上の拘束を受けていて、隔離を継続的に受ける患者(1798人)の約35%が1か月以上の隔離を受けている(@ ̄□ ̄@;)!!
日本の行動制限はまさにケタ違い で、最も長いケースでは1,000日も!!
日本の身体拘束平均継続時間は米国カリフォルニア州の約600倍、ペンシルベニア州の約1260倍 です。
上の表で示した他国の身体拘束の単位は「時間」です。
日本の身体拘束は他の先進国とは同じグラフで現せないほどの異常な長さです。

精神障害者には長期入院が必要か?

もうずいぶん昔の話になってしまいましたが、私が社会人になって初めて名古屋の精神科病棟で働いたとき、長期にわたって座敷牢に閉じ込められていた統合失調症の50代の方が入院していました。

数十年に亘って閉じ込められていたので筋力が低下し、長い距離を歩くことはできませんでした。他の誰かと話すこともない暮らしの中で会話する力を失い、出てくる言葉は限定的な要求だけでした。
でもふとした時に私たちスタッフみんなが感じていたのは、統合失調症自体は本当は軽かったのではないか。長期にわたって隔離されていたために社会性を失ってしまっただけではないかということでした。

いま、40年にも亘って入院を強いられていた伊藤時男さんという方が精神科医療の在り方を巡って、国家賠償責任訴訟を起こしています。
16歳で統合失調症を発症した伊藤さんは福島県の精神科病院に約40年間入院させられ、福島第一原発事故の避難を機に退院。グループホームでの生活を経て、今はアパートで独り暮らしをしています。
伊藤さんが裁判を通して訴えているのは、長期にわたる入院により職業選択や結婚など多くの自由を奪われたという医療の名のもとに行われている重大な人権侵害です。

精神障害者に必要なのは長期入院・社会からの隔離ではなく障害を持っていても地域の中で暮らしていくためのシステムであり、他の障害(身体障害や知的障害)と同じことです。

「にも包括」の具体的な施策

厚労省が具体的に示している「にも包括」の事業内容は、以下の10点です。

1.保健・医療・福祉関係者による協議の場の設置

2.精神障害者の住まいの確保支援事業

3.ピアサポートの活用事業

4.アウトリーチ事業

5.入院中の精神障害者の地域移行に係る事業

6.包括ケアシステムの構築状況の評価に係る事業

7.精神障害者の地域移行関係職員に対する研修に係る事業

8.措置入院者及び緊急措置入院者の退院後の医療等の継続支援に係る事業

9.精神障害者の家族支援に係る事業

10.その他、包括ケアシステムの構築に資する事業

9月議会で問題視したこと

市の第6期障がい福祉計画(2022年~24年)にも「にも包括」が位置付けられています。
しかし実際に書かれている文言は入院期間短縮に向けた国の指標だけで、「その他にも精神障がいに対する指標が示されているが、それらは県が設定している」というものです。
では市は実際に何をしていこうとしているのでしょうか。
9月議会で私が問うたのはそういう問題でした。

ただこれは、吉川市だけが特別にやる気がなくてこんなことしか書いていないとか、そういう問題ではないと思っています。

下のPowerPointは今年7月7日の東京新聞「こちら特報部」に掲載された、日本精神科病院協会会長 山﨑学氏へのインタビュー記事の抜粋です。

自らを「ドン」と名乗り精神科病院協会の会長職を10年以上にわたって務める人が、地域で見守ることを否定し、長期入院を幸せだと言うのです。
この方は他のインタビューでも患者を縛るのは当たり前のことだと、縛らないでどうやって看るんだというような発言さえしています。
そういう人が精神科病院のトップにいる状況では、厚労省が本気でこれを進めようとしているとしても、そう簡単に進むはずがない・・・💦
残念ながら、そう思います。

精神科病床を廃止したイタリアと愛南町

イタリアでは1978年『イタリアの精神医療・福祉に関する法律』が制定され、80年以降は精神科病院の新設と既存の精神科病院への新規入院・再入院を禁止しました。
そして今では精神科病床は廃止されました。
治療やケアは原則地域精神保健サービス機関で行い、入院が必要な時は 公立の総合病院に付設された病棟に入院するそうです。
バザーリアという一人の医師の「医師と患者との対等な関係を築きたい」という思いが、改革に繋がったそうです。

日本でも、愛媛県愛南町では精神科病院が2016年に閉鎖。
建物の一部を使ってクリニックと元入院患者さんたちが共同生活をするグループホームを運営。患者さんたちと始めたアボカド栽培は、銀座千疋屋に出品するほどのものができているそうです。
33歳で院長に就任した医師が「自分がされたくないことを患者にしている」事実に悩み、20年かけて閉鎖をしたそうです。

こうした事例が、精神障害者に長期入院や拘束は必要ないということを改めて示していると思います。