「敵基地攻撃能力」を持つとはどういうことか?
少し前の話になりますが、埼玉県平和委員会が主催するピースカフェ「先制攻撃・全面戦争につながる敵基地攻撃論の危険性」に参加しました。
講師は事務局長の二橋元長さんでした。
中立国であり福祉大国でもあるフィンランドにスウェーデン、とっても尊敬していた二つの国がNATOへの加盟を表明しました。他の国々も何となく右傾化しているように感じます。
そして日本も軍事力強化の方向性を更に強化し・・・。これからどうなっていくのか、本当に心配でたまりません。
二橋さんのお話、簡単にご紹介します。
日本国憲法も国連憲章も「敵」を想定していない
日本国憲法前文「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」
第九条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
つまり、日本国憲法は「敵」を想定していません。日本国憲法のもとで「敵」というものを想定すること自体が、もうすでに憲法違反ではないでしょうか。
国連憲章前文
「二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、......共同の利益の場合を除く外は武力を用いない」
国連憲章もまた、「敵」を想定していないと読むことができます。
エスカレートする「敵基地攻撃論」
このところ安部元首相がやたらと元気になり、登場するたびに発言のボルテージが上がりエスカレートしています。敵基地だけに限定せず、相手をせん滅するとまで言っています。せん滅とは「皆殺しにする」という意味です。
安倍の実の弟である岸信夫防衛大臣は、国会での質問に対し「相手国の領空で爆撃することを排除しない」と答弁しました。
今年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて安部元首相は、「中国が攻めてきたらウクライナのようになる」と不安を掻き立て、敵基地攻撃能力・改憲、更には核兵器を持つべきとまで言い出しました。
更に4月になると、敵基地に限定する必要はない、中枢を攻撃することも含むべきだと。残念ながらメディアは彼の発言に対して一切批判せず、ただただ垂れ流すだけです。
自民党の安保調査会は「敵基地攻撃」というと刺激が強いから、「反撃能力と言い換えよう」などと言いながら、実際には「基地に限定しない」という安倍元首相の発言を受けた中身で提言案を了承しました。さらには軍事費を5年以内にGDP比で2%を超えることを目指していくということを謳っています。
「指揮統制機能」を攻撃⁉
更にすごいのは「指揮統制機能」を攻撃すると言い始めています。これは日本で言うなら内閣総理大臣官邸・関係省庁・在日米軍を叩くという意味になります。
それをいま日本が言っているということは、相手の国の大統領府・中央省庁、あるいはそこにいる軍隊そのものを叩くと言っているに等しい話です。
上の図は東京新聞に出されたものです。最初に言われていた「敵基地攻撃能力」はミサイル発射地点で、今にも燃料が注入され、発射されようとしているぞと言われるミサイルを叩くという言い方でした。
「指揮統制機能」を攻撃するとなると、ミサイルや燃料を運んでくる現場部隊やそれを指揮・管制する通信施設、更に今では攻撃の意思決定・命令をする軍・政府そのものを叩くところにまで攻撃対象の範囲が広がっています。そうなれば「敵基地」どころか「敵地」そのものを攻撃することになります。
非常に危険な岸田政権
これらを受けての大軍拡も敵基地攻撃能力の保有も改憲も、岸田政権は全て前のめりであり、非常に危険です。安倍元首相から菅氏を経て、受けたバトンをひたすら走っています。
既に昨年、菅首相の時代にアメリカとの間で日米首脳会談が開かれ、インド太平洋全域で軍事同盟を強化するとかアメリカの核兵器使用への支援、自衛隊の攻撃的な大軍拡、「台湾有事」に備えた参戦体制づくりを約束し、着々と具体化してきています。
岸田首相は「敵基地攻撃能力」というのは「平和安全法制」、私たちは戦争法と呼んでいますが、この戦争法によって変わった「武力行使の3要件」に基づいて行うと。3要件とは、
①密接な関係にある他国(アメリカ)への武力行使が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命及び自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)
②我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適切な手段がない
③必要最小限度の実力行使に留まる
というような場合、つまり日本が攻撃されていなくてもアメリカのために他国を攻撃するということを岸田首相は公然と言い放っています。
更に今年の3月13日に行われた自民党党大会で、岸田首相は自民党の総裁としてあいさつをし、防衛体制強化(安全保障戦略見直し)・日米同盟強化・国連改革(日本が国連常任理事国入りを目指す)・改憲実現、このような挨拶をして決意表明しています。
見過ごせないのは既に敵基地攻撃能力を保有するための準備が着々と進んでいることです。
出雲型護衛艦を空母に変えていく、長距離の巡航ミサイルを持つ、F35を大量に買い込む、スタンドオフ電子戦機の開発に着手するなどの形で、もう既に敵基地攻撃能力の強化が始まっています。
軍事予算GDP比2%以上とはどういうことか
本気になって敵基地攻撃能力を持とうとすると、更に軍拡が必要になります。
上の図は、東京新聞に掲載された敵基地攻撃能力のイメージです。赤い文字の装備(偵察衛星・無人偵察機・スタンドオフ妨害機・エスコート妨害機・ステルス爆撃機など)を、日本は今、持っていません。全てアメリカ頼みになっていますが、これらを全部日本は自前で保持しようとしています。軍事費がいくらあっても足りなくなります。
昨年の衆議院選後、自民党はGDP比2%以上の軍事予算を目指すと言いました。既に本予算と補正予算を合わせると、2021年度は6兆円を超え、今年度も既に5兆4,005億円の本予算を組んでいます。
軍事費を2倍にするとなると10兆円を超え、12兆円近くになると言われています。
今日本の軍事力は世界第9位と言われていますが、もし軍事費がGDP比2%になるとアメリカ・中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になります。
しかも重要なことは、アメリカも中国も核大国。核兵器を持っていない国で軍事費が第3位になる、核兵器を持っているイギリス・フランスなどよりも軍事費が多くなり、核兵器を持っていない国の中ではダントツの軍事大国になっていくことになります。
私たちの暮らしが破壊される
防衛相は今、反戦デモをテロ扱いすることで「国民敵視」の姿勢を露わにしています。
政府がやろうとしていることは明らかに憲法違反だから、「どうしても憲法を変えなくてはいけない」と改憲に執念を燃やしていると言うことができます。
そういう中で、憲法を活かし・いのち・くらし・平和守るを実現しないとこの道がどんどん進んでしまう状況に、今あります。
安倍元首相が総理大臣になったのは2012年でした。
2013年以降2022年までの10年間で、軍事費だけは1兆円も膨れ上がりましたが、一方で社会保障費・中小企業を守るための予算などはどんどん下がっています。
軍事費を削って暮らしに回していかないと、私たちの暮らしは破壊され続けることになります。
憲法を変えてほしいとは誰も望んでいない
憲法を変えてほしいとは誰も望んでいないことが、多くの世論調査で明らかになっています。特に景気・雇用、年金・医療・介護を何とかしてほしいという声は多く、憲法を変えてほしいという声は8%に過ぎません。
憲法改悪を許さない、日本は核兵器禁止条約に参加をという二つの署名を広げていくことにより、敵基地攻撃能力保有の軍拡政治をストップさせることがとても大事です。