『ピンク・トライアングルの男たち』

2024年06月23日

スゴい本を読みました。
『ピンク・トライアングルの男たち』ハインツ・へーがー著 伊藤明子訳 (株)パンドラ。

以前『ナチ刑法175条』という映画をご紹介しましたが、その関連の本です。

ナチスドイツでは刑法175条で男性同士の同性愛が厳しく弾圧されました。
この著者は1939年にゲシュタポに呼び出され、出頭するとそのまま強制収容所に送られてしまい、そこで6年もの歳月を生き延びました。その間家族も迫害を受け、父親は耐え切れずに自死。
この本は著者自身の強制収容所での体験をつづった書です。

強制収容所で男性同性愛者はピンク・トライアングルのワッペンを付けさせられました。ユダヤ人は黄色、緑は犯罪者、赤は政治犯、黒は反社会的分子、茶色はロマ、紫はエホバの証人。
ピンク・トライアングルの男性同性愛者はそのヒエラルキーの一番底辺に置かれ、死ぬことさえ厭わない、ひどい嫌がらせと虐待を受けます。殺人や強盗を犯した犯罪者さえ、男性同性愛者に対しては居丈高に出て、「自分たちはそこまでろくでもない人間ではない」とアピールします。
けれど収容所の中には同衾やボーイフレンドは密やかにでも溢れていて、それなのに男性同性愛者には容赦のない虐待が続く・・・。

信じられないと思ったことのひとつはSS隊員たちの拷問。
ピンク・トライアングルの囚人を裸にしてなぶり殺す様を、みんなで酒を飲みながら笑いながら眺め、死ぬと蹴飛ばしながら引き上げていく・・・。
とても人間の所業とは思えない極悪非道な行為が、80年前のドイツとドイツが征服した各地で実際に行われていた!!
その事実に、とにかく寒気がします。

そしてもう一つ驚いたのは、収容所の中に囚人のための売春宿が作られたという事実です。
そこに10人の女性が連れられてきて、そこに連日100人以上の男性が押し寄せる。
ピンク・トライアングルの男性も、性癖を強制するためにと売春宿に行くことを強要される!!
SSたちは覗き穴を作って、そこでの男女の交わりを覗き見るΣ( ̄□ ̄|||)

これはもう、一体何の倒錯した世界の話だろうと思うしかないような、異常な事態が実際にあったという事実。
とても恐ろしいことだと思います。

訳者の後書きには、こんなことが記されています。
「1871年の刑法175条はレズビアンにはふれない。レズビアンは英国と同様、近代ドイツでは一度も非合法ではなかった。男権社会では女性の独立を押しつぶすには、これ以外にもいくらでも適切な方法を知っていたからである。女性は女性らしく「子供、家事、協会」の3Kに囲い込み、男性は男性らしくあることがナチズムのイデオロギーの根幹をなすものであり、同性愛という頽廃はこの「北方人種」の伝統に真っ向からぶつかる者とされた。」

国家が国民の「性」という、最も立ち入ってはいけない部分にずかずかと入り込みとんでもない人権侵害を繰り返す・・・。
結局、国家が「わが民族」とか「優位性」とかを言い出すということがとても恐ろしいことなのだと、改めて思います。