『プラスチック汚染と私たちの暮らし』~埼玉母親大会記念講演~

2023年06月11日

1週間前に春日部市民文化会館で開催された、埼玉母親大会。記念講演、東京農工大学教授の高田秀重さんの『プラスチック汚染と私たちの暮らし』の概要をお伝えします。

年間5億トン近くのプラスチックが製造されている!

人類は年間5億トン近くのプラスチックを石油から作っている。そのうち約半分は一度使うとゴミになってしまう、容器・包装に使われている。私たちが毎週決まった曜日に出したごみの一部はリサイクルされ、一部は埋め立てられ、一部は焼却されている。しかしその廃棄物キャパシティーを超える大量のプラスチックを使用しているため、回収しきれないプラスチックが雨などで流されて、川や海に入っていっている。
ペットボトルは一番回収率・リサイクル率の良い製品だが、回収率は90%程度。年間日本全体で200億本以上使っている。25億本程度が未回収。そのうち0.1%が海に出ると仮定しても数百万本のペットボトルが海に流出していると考えられる。

プラスチックからマイクロプラスチックへ

周りにほとんど人が住んでいないハワイのあるビーチに漂着した大量のペットボトルは、中国語・ハングル・日本語などが刻印されている。東アジアで発生したゴミが数千キロ北太平洋を渡り、ハワイ島まで流れ着いている。人口密集地からずっと遠いところまで運ばれていくのが、プラスチックの特徴。
海を浮いて流れていく間、プラスチックはずっと紫外線を浴びている。私たちの日焼けと同じように紫外線によってプラスチックが劣化し、更に紫外線を浴び続けることと波の力も加わり、5ミリ以下の小さなプラスチック(マイクロプラスチック)になる。
マイクロプラスチックは世界中の海で観測されている。

発生源は使い捨てプラスチックだけではない!

使い捨てプラスチックの他にもマイクロプラスチックの発生源があることが、最近の研究で分かってきている。

ポリエステルやアクリルなどの化学繊維でできた衣服を洗濯すると、繊維状のマイクロプラスチックが発生して下水に入る。下水処理場で分解されるわけでもないので一定量が下水処理した水にも入り、川や海に入っていく。
大雨が降ると下水処理場に流されずに、直接川や海に入っていき、繊維状のマイクロプラスチックが川や海を汚染するということが起きている。
台所で使うポリウレタン製のスポンジは使っているうちにだんだん小さくなっていく。まさにマイクロプラスチックを発生させて、川や海に流しているということになる。
特に発生量が多いものはメラミンスポンジ(めちゃくちゃ汚れが良く落ちる、四角くてまっ白なスポンジ)である。

屋外で使うプラスチックは紫外線がよく当たるので劣化が進む。そこに雨が降れば雨で洗い流されて、川や海にマイクロプラスチックが入っていく。特に人工芝やタイヤは摩耗するのを前提とした製品。紫外線の力と物理的な力で人工芝やタイヤの屑などはよく見つかるマイクロプラスチック。
我々の暮らしのいたるところでプラスチックが使われている。世界中の海には50兆個以上のマイクロプラスチックが浮いて漂っている。

プラスチック汚染の何が問題か?

海の生物が餌と間違えたり、餌と区別することができずに取り込んでしまうことが問題。
ギリシアの海岸に打ち上げられたクジラの胃の中には、明らかにレジ袋と思われるものが見つかっている。レジ袋で腸閉塞になり、なくなったクジラも報告されている。
ウミガメの糞便からマスクが出てきたとの報告もある。海鳥がプラスチックを食べてしまうことは、昔からよく知られている。
海の中の大きな生物は大きなプラスチックを取り込んでいくが、小さなプラスチックは小さな魚が取り込んでいる。東京湾で採取されたスズキの胃の中から5mm前後のプラスチックが検出された。カタクチイワシ(大きさ10~13㎝くらい)、東京湾で採取した63匹のうち49匹から1ミリ前後のマイクロプラスチックが見つかった。
多摩川河口でハゼ、クサガニ・ハマグリなどを採取し調べた結果、特殊な顕微鏡を使って見ないとわからないほど小さなプラスチック(1mmの10分の1~20分の1 の大きさ)が、すべての生物から検出された。

食物連鎖の中で人間も暴露している

小さなプラスチックが小さな生物に取り込まれる。小さな生物はそのあと大きな生物に食べられる。その生物をまたより大きな生物が食べる、海の中の食物連鎖によって、マイクロプラスチックは小さな生物から大きな生物に移っていくということが起きている。 海の生態系の隅々にまでマイクロプラスチックがいきわたってしまっている。人間も例外ではない。
我々も魚や貝を食べることによりマイクロプラスチックに暴露している。中国では人間の糞便からマイクロプラスチックが検出されたという研究例がある。マイクロプラスチックよりも更に小さなナノプラスチックは生物膜を通り抜けて血液の中にも入ってくる 。オランダでは、人間の血液中からナノプラスチックが採取されている。プラスチックは生物が同化・消化することができない異物であり、それが身体に入ってくると生物の反応として免疫反応が起きる。

糞便中にマイクロプラスチックが検出された方を健康な方と炎症性の腸疾患を持っている方に分けたところ、炎症性腸疾患を持っている方の方が糞便中のマイクロプラスチックの量が多いことが確認された。また炎症性腸疾患が重症化するほど糞便中のマイクロプラスチックの量が多くなることが確認された。

環境ホルモンの影響

プラスチックには、その性能を維持したり性能を良くしたりするためにいろいろな種類の化学物質が添加され ている。 添加材の中には環境ホルモン(正式名称:内分泌かく乱化学物質)として作用する化学物質が存在する。いろいろな種類の化合物・添加剤が環境ホルモンとして働く。

環境ホルモンは、人間の体内に入るとホルモンの真似をしたりホルモンの動きを邪魔をしてしまう。特に狭い意味での定義では女性ホルモンの真似をするあるいは女性ホルモンの動きを邪魔することによって、性や生殖に関係するような異常を引き起こす。 

例えば子どもの性的な成熟の遅延、あるいは早熟が起こっていることと環境ホルモンの影響も確認されている。女性の場合は乳がんや子宮内膜症等の生殖系に関係するような病気の増加と関係しているという報告もある。男性の場合精子数の減少等の一因になっていると考えられている。

ジッパー付きの食品密閉容器・ポリ袋・ボウル・マスク・ストローなど我々が日ごろの飲食に使うようなプラスチックの中に実は環境ホルモンが含まれていることが分かってきている。プラスチック製品を使えば、我々は環境ホルモンに出くわすことになる。ただし溶け出しにくいように練り込まれているので、通常の使い方をすれば暴露されることはない。
しかし海に流れ出たプラスチックの中にも添加剤は残留している。魚や貝が小さくなったプラスチックを取り込むことにより、その体内に環境ホルモンが溶け出して身の中に留まり、それを人間が食べることによって間接的に環境ホルモンに暴露されてしまうという問題が起きている。

環境省のエコチル調査。全国で約10万人の妊婦さんの食生活と出産の状況の関係を調べた。使い捨てのプラスチック容器に入れられたお弁当や、プラスチックで包まれた冷凍食品を週2回以上食べると死産の割合が、そういう食生活をしない人に比べると2.6倍死産の割合が増えていることが報告されている。
ヨーロッパで行われた大規模な調査結果では、成人男子の精子がここ40年で半減していることが示されている。

プラスチック製品の使用量全体を減らさなくては

先日広島で開催されたG7の前に気候エネルギー環境大臣の会合が札幌で行われ、海に入るプラスチックの量を2040年までにゼロにするという宣言が行われた。少し前まで2050年としていたが問題の深刻化の速度が速いので、2040に10年前倒しにされた。
海に入るプラスチックをゼロにすれば、魚介類を通して我々が環境ホルモンに暴露される量を減らすことができるので良いことだが、具体的にどうしたら良いか?

ゴミとして出したプラスチックは、一つは埋め立てに使用されている。しかし埋め立てたものが雨で洗われて、有害な添加剤やプラスチックそのものが溶け出して川や海を汚染してしまうことも分かっている。
一旦埋め立ててしまうと、もう取り出すこともできずにしみ出して来る水は何十年も、あるいは何百年、それ以上しみ出し続け、地下水、そして川をずっと汚染し続けることになる。持続可能な最終処分ではない。

プラスチックのゴミを燃やせば地球温暖化にも繋がってしまうし、ダイオキシン等の有害な化学物質も発生する。
高性能の焼却炉をつくれば、ダイオキシンの発生は防ぐことができる。そのためには多大なコストがかかる。40万人の人口のごみを焼却するためには大体100憶円。ダイオキシンを発生させないように高温でゴミを燃やすので、炉としてのいたみも早く、だいたい30年くらいで寿命を迎える。30年ごとに多額の資金を集めてゴミ焼却炉をつくり続けるというのが果たして持続可能な オプションなのか。
大量消費大量リサイクルという方法もあるが、リサイクルには手間も費用もエネルギーもかかる。ペットボトルを1本作ってリサイクルをすると140㌘の二酸化炭素が発生する。エアコンを30分使ったのと同じ量の二酸化炭素。ガラス状のりたーなる瓶を洗瓶しながら使用すれば80㌘の発生で済む。

具体的に何をしたら良いのか?

レジ袋を買う・もらうのはやめて、マイバッグに。
ペットボトルは環境汚染の一番の筆頭。水筒やマイボトルを持ち歩く。
コンビニなどでストロー・スプーン・フォークなどのプラスチックカトラリーは断る。
プラスチック容器に入ったコンビニのお弁当はやめて、家でつくったものを食べる。
個包装のお菓子は、まとめて包装してある商品に。
液体せっけんは詰め替え容器に入っているおり、それもプラスチックでできている。決してエコではない。特に臭い・香りが沁み込みやすいのでリサイクルしにくいプラスチック。燃やしてしまうプラスチックの代表。できるだけ固形石鹸を使うようにする。
化学繊維の衣服は天然素材の衣服に。
芳香剤入り合成洗剤はプラスチックでつくられたマイクロカプセルの中に芳香剤が入っている場合があり、マイクロプラスチックの発生源になることがある。芳香剤入りの合成洗剤は使はないということも大事。 
食品包装ラップはやめて、陶器や蜜蠟ラップを使用する。
カップ麺の容器にはそもそも環境ホルモンが入っている。熱いお湯を注ぎ濃いスープになると、そこに環境ホルモンが溶け出してそれを飲んだ我々が環境ホルモンに暴露されてしまうことには陶器のどんぶりに移して、温めて食べるようにする。