『日没』

2022年07月13日

『日没』(桐野夏生著 岩波書店)を読みました。

本当にすごい作品です。
桐野夏生さん、大好きな作家さんですが、読後に必ず残るもやもやとした後味の悪さは独特です。
6月24日号の『週刊金曜日』に「作家 桐野夏生さんと考える言論統制 権力は世論をうまく利用する」という特集が組まれていました。
おおっぴらに言えないことを小説という形で社会に問うのが作家の仕事。
だからこそ、そういうよろしくない発言をする作家を拘束してしまうようなことは起こりうるのでは・・・。
そんな桐野さんの問題意識から描かれたのが、この小説とのことでした。

新たに成立した法を根拠に表現の自由に「規制」が持ち込まれる・・・。
国の意に沿わない作家が隔離される・・・。
「転向」に応じられない作家が生きる場所を失い、追い込まれていく・・・。
自殺する作家が増えていく・・・。
そんな社会がすぐそこまで来ているようで、非常にリアルで恐ろしく感じる一冊でした。
ぜひ読んでみてください。

これからの時代、政府にとって都合の悪い小説を書いたからと言って、小林多喜二のように裁判にもかけずに警察が虐待死させるようなことは絶対にできないと思います。
でも「研修」とか「倫理問題」と称して社会から隔離して自殺に追い込むことなら、残念ながらできてしまうかもしれません。でも、そんな時代が来ても良いのか・・・。
そんな時代の到来を認めても良いのか・・・。
「表現の自由」「言論の自由」ってどういうことなのか。
今、真剣に考えないといけない気がします。

2016年の『文学』、2017年の『世界』にそれぞれ隔月掲載された小説とのことですが、安倍政治の真っただ中、社会が右傾化していく中で執筆されたという事実に桐野夏生さんの感覚の鋭さを感じます。