『精神病院つばき荘』

2023年11月30日

劇作家くるみざわしんさんのお芝居、『精神病院つばき荘』を観ました。
今回もすばらしい作品でした。

「つばき荘」と聞いて思い浮かべるのは「椿」の花。
ところがつばき壮の中庭には「椿」の花どころか、花一輪咲いていない。なぜなら「つばき荘」は「椿荘」ではなく「唾荘」だから。
精神障害者は親兄弟・世間・医療従事者からも唾棄される。
理事長は中庭で唾を吐き、杖で患者さんたちをどつきまわしていた。
花が咲かないのはその呪い・・・。

原発事故の影響で廃墟と化したつばき荘の元保護室で、何年もかけて患者さんのカルテを一冊一冊丁寧に読む元院長。唾を吐く側に生まれ育った院長は、「そこから抜け出したい」「人間の罪の前で、私はひるみたくない!」と。

人間とはどういうものかを描きながら、精神科医療の問題点や精神障害者がどのような立場に置かれているかを鋭く描き、「アウシュビッツも731部隊もオウムも、最前線で手を貸したのは医者だ」と医師の倫理観にも鋭く踏み込む舞台でした。

以前にも書いたかもしれませんが、私は初めて社会人になった時から約5年間精神科病棟で働きました。
患者さんたちとの様々な触れ合いも今でも忘れられない思い出がたくさんありますが、カルテにはまた特別な思い出があります。
深夜勤務の静寂の中で受け持ち患者さんのカルテを丁寧に書き込み、この一週間から数週間の患者さんの様子やそれをどのようにみるのかサマリーを丁寧にまとめました。
そして同僚や先輩、医師の書いたサマリーを読むのはとても楽しいひと時でした。
その患者さんがどういう人で、どんなことに苦しんでいて、どんなことに楽しみを見出して日々を過ごしているのか・・・。
自分が知らない患者さんを知ると同時に、その患者さんを看る看護師の視点から今度はその看護師さん自身を知る・・・。
そんな体験だったと思います。
カルテを読むひと時は、本当に大切な時間でした。

元院長がカルテを一冊一冊丁寧に読み、もう亡くなってしまった人であってもその人に改めて出会う努力をする。
唾棄すべき対象ではなく、カルテを通してその患者さんと改めて初めて出会い、一人の人としてその方を理解して受けとめ、その方の尊厳を取り戻す・・・。
元院長はそんな作業をされているのだと感じました。
院長の行動、どこか理解できる気がします。