『舟を編む』
もうずいぶん前の話ですが、漢和辞典にハマったことがあります。
同じ読み方で同じような意味を現す感じが複数ある・・・、 そんな漢字の使い分けを知りたいと思ってハマっていました。
私が読み漁ったのは『全訳 漢字海』という、三省堂の辞書でした。
例えば「さみしい」。
「寂しい」は物音ひとつしない、閑散としたさみしさを現し、「淋しい」は川の流れなど物音はしているのに人の気配がない、独りで森の中を彷徨っているかのようなさみしさを現すとか。
辞書を読むって楽しいなぁと思ったことを覚えています。
今日読み終えた本は『舟を編む』(三浦しをん著 光文社)。
2012年に本屋大賞で第一位を獲得した本です。
今月から毎月一回市立図書館で開催されている読書会に参加しようと思い、今月の本がこの作品だと知り大慌てで読みました。
今NHKのドラマでも放送されているそうで、話題の本でもあるようです。
15年にも及ぶ辞書編纂の過程と、その仕事に携わる一人ひとりがとても優しく温かく描かれています。
辞書をつくるとはかくも大変なことだったのかと初めて知り、登場人物の一人ひとりの生きる姿に共感したり感動したり笑っちゃったり心温まる一冊でした。
作品の中で、「海外では自国の辞書を国王の勅許で設立された大学や、時の権力者が主導して編纂することが多く、公のお金が投入される」「自国語の辞書の編纂は、国の威信をかけてなされるべきだ」という考えがあること。
「言語は民族のアイデンティティのひとつであり、国をまとめるためにはある程度、言語の統一と掌握が必要」と考えられているからだということが紹介されています。
そして日本では、公的機関が主導して編纂した国語辞書は皆無だと。
「公金が投入されれば内容に口出しされる可能性もないとは言えず、国家の威信をかけるからこそ、生きた思いを伝えるツールとしてではなく、権威付けと支配の道具として言葉が位置付けられてしまう恐れがある」。
「言語とは、言葉を扱う辞書とは、個人と権力、内的自由と公的支配のはざまという、常に危うい場所に存在する」。
「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とは全く無縁な、自由なもの。また、そうあらねばならない。自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟」。
この本は三浦しをんさんが実際に岩波書店辞典編集部を取材し、描かれた本とのことですが、辞書編纂に携わる人々の心意気に深く感動してしまいました。