医療従事者として、働くことが怖くなるような判決だと思います
私は勿論、性暴力は重大な人権侵害だと思っていますし、なくしたいと心から思っています。その話と、今回の乳腺外科委が準強制わいせつ罪に問われた話とは全く別の話だと思っていることをまずお断りしておきます。
2016年5月、乳がんの手術後、患者である女性の着衣をめくり胸を舐めるなどのわいせつ行為を行ったとして、準強制わいせつ罪で乳腺外科医が逮捕・起訴されました。
一審では女性の訴えは麻酔の影響による「術後せん妄」の可能性があるとして、無罪とされました。
しかし控訴審で東京地裁は、医師に対し懲役二年の実刑判決を言い渡しました。
判決理由として、「具体的かつ詳細で迫真性が高い」「送っていたLINEのメッセージ内容とも符合する 」などとあげました。
カルテに「せん妄」と書かれていなかったことや、女性患者がLINEを送信できていたことなどから、「当時せん妄に陥っていたことはないか、仮に陥っていたとしても、幻覚は生じていなかった」「女性患者の証言の信用性の判断に影響を及ぼすことはないというべき」と結論 づけました。
本当にショックなニュースです。
医療従事者の労働が根底から揺るがされてしまうような、そんな判決だと感じました。こんな判決を出されてしまったら、医療従事者はもう安心して仕事に従事することができないのではないでしょうか。
いいなぁと思うブログを見つけたので、ここに添付してご紹介します。
せん妄というのはちょっと難しいのですが、とっても簡単に言うと「意識障害が起こって、頭の中が混乱している状態」です。
高齢者では割とよく見られる状態で、幻覚を伴うことがあります。
そしてそこで起きた幻覚をご本人が口にすると、その思い違い・勘違いを訂正しようと周囲が一生懸命訂正すればするほど、ご本人は「間違いのない事実」として確信してしまう・・・。看護師として、そんな経験が何度かあります。
このケースも同じように、ご本人が「舐められた」と訴え、医師や医療従事者が否定すればするほど、更に確信を深めたのかもしれません。
せん妄状態の中で生じた幻覚への確信に医師が巻き込まれてしまっている・・・。
医療従事者の多くは、そんな風に感じたのではないでしょうか。
そして、一審の無罪判決に胸を撫で下ろした人は多いと思います。
控訴審でも、改めて「せん妄」が問われました。
裁判官は、せん妄の専門家の医師を証人として推薦するよう検察官側と弁護団側双方に求め、それぞれが推薦した医師が証人として出廷しました。
弁護団側が推薦したせん妄を研究する大学教授は、同様にせん妄の可能性を指摘しました。
しかし検察側の証人は、せん妄の専門家ではありませんでした。
そして裁判官も当然、せん妄の専門家ではあり得ないし、おそらくそもそもせん妄を知らないのではないでしょうか。
にもかかわらず専門家の証言を否定し、「せん妄状態には陥っていなかった、仮に陥っていたとしても幻覚は生じていなかった」との判決です。
その理由として、被害を訴えた女性が若くて基礎疾患のない患者であり、専門家たちが日ごろ診ているような高齢者や基礎疾患のある患者たちとは違うという意味のことを判決文の中で述べたとのことです。
あまりにもひどい判決だと思います。
「具体的で詳細で迫真性が高い」との裁判官の言葉ですが、それこそせん妄で生じた幻覚に対する妄想的な確信と見るべきではないかと思います。そして、せん妄が起きていても、昏睡状態に陥っているとかではないのでLINEくらいは送れるんじゃないかと思います。
ずいぶん昔の話になってしまいましたが、流産をしてしまいました。そしてお腹に残された胎児を掻把するための手術を受けました。それ自体は簡単なものだと思いますし、麻酔も静脈麻酔でした。
でもその麻酔で私はすっかり気分が良くなり、ピンク色の夢の世界の中でケタケタと笑い続けていました。
麻酔が聞き始めた瞬間からフワフワと明るく心地よい世界に入り込み、私は笑ったんです。
悲しくてたまらない状況だったにも関わらず。
当時の私は若くて健康な女性でした。それでも、薬の影響はとても大きかったと未だに忘れられない記憶です。
「麻酔をかける」ということ、「せん妄」ということ、検察官や裁判官がちゃんと知っていたら、そして専門家の言葉にちゃんと耳を傾けていたら、こんな判決にはならなかっただろうと思っています。
その判決が、全国で働く医療従事者の労働を根底から揺るがせるようなものだと、怒りをもって感じています。