大きな前進~生活保護の扶養照会

2021年04月08日

扶養照会が不安で、健康で文化的な最低限度の生活をはるかに下回る状況にありながらも生活保護の申請ができずにいる方がたくさんいらっしゃるということを、この間何度もお伝えさせていただきました。
その生活保護行政に、新たな変化が生まれています。
昨夜、「生活と健康を守る会 埼玉」の方からお電話をいただき、初めて知りました。

3月30日、厚労省は「『生活保護問答集について』の一部改正について」と題した新たな通知を発出しました。


扶養義務者に対 する扶養照会 は、下記(1)から(3)までの作業の結果、「扶養義務の履行が期待できる」と判断される 者に対して行うものである。
 (1)まず扶養義務者の存否の確認から行う。この作業は、要保護者からの申 告を基本としつつ、必要に応じて戸籍謄本等によって行う。
 (2)存在が確認された扶養義務者につい ては、要保護者等からの聞き取り等により、扶養の可能性 調査を行う。
要保護者が扶養照会を拒ん でいる場合等においては、その理由につ いて特に丁寧に聞き取りを行い、照会の 対象となる扶養義務者が「扶養義務履行が期待できない者」に該当するか否かと いう観点から検討を行うべきである。そ れでもなお、「扶養義務履行が期待できない者」に該当しない場合には、(4)に 基づく対応を行う必要がある。
 (3)可能性調査の結果、「扶養義務履行が 期待できない者」と判断された場合は、 個別に慎重な検討を行った上で、扶養の可能性が期待 できないものとして取り扱い、扶養照会 を行わないこととして差し支えないも のとしている。
ただし、当該扶養義務者 が生活保持義務関係にある者である場 合は、関係先調査を行うことと している。
 (4)扶養照会における照会方法について は、①「生活保持義務関係者」、②「生活保持義務関係以外の親子関係にある者のうち扶養の可能性が期待される者」、 ③「その他当該要保護世帯と特別な事情 があり、かつ扶養能力があると推定され る者」を、「重点的扶養能力調査対象者」 として、実施機関の管内に居住する場合 には実地で調査を行うなど、重点的に調 査を実施することとしている。それ以外 の扶養義務者については、文書による照 会を行うなど、必要最小限度の調査を行 うこととしている。


いつも思いますが、行政の文書は非常に難解です。
でもこの通知を読むと、これまでの扶養照会からは大きく前進していることが良くわかります。
これまでは扶養照会は生活保護の事務上必ず行うべきものであり、申請者に拒否権はありませんでした。
しかし今回の通知では要保護者の意向を尊重し、要保護者が扶養照会を拒む場合には、「扶養義務履行が期待できない場合」に当たる事情がないかを特に丁寧に聞き取るように求める内容となっています。

また、扶養照会は「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に対してのみ行うものと明記されました。
これまでは照会しても援助を受けられたケースは極めて少なく、照会のための事務経費の方がずっと多いというような状況が続けられてきました。
恐らく生活保護担当のケースワーカーは、扶養照会を拒む申請者と扶養照会をしなくてはならないという制度との板挟みにあい、辛い思いをしてきたのではないでしょうか。
「扶養義務の履行が期待できる」と判断されるものに対してのみ行うというのであれば、とても楽な気持ちで本来の支援業務ができるのではないでしょうか。
そして生活に困窮した方も、こうした制度の変化を知れば、保護を申請してみようという気持ちになれるのではないでしょうか。

扶養照会が怖くて、路上生活を送りながらも生活保護の申請ができないという事態。
生活保護を申請するしか生きる道が(今は)ないという状況の中で、それならばと死を選んでしまうような事態。
こうした事態が少しでも改善するように、今回の厚労省の通知はとても意義のあるものだと感じます。
この変化を、困窮する一人でも多くの方に知っていただけたらと思っています。