埼玉の農業・食料を考えるシンポジウム

2022年04月18日

一昨日、『埼玉の農業・食料を考えるシンポジウム』に参加しました。
埼玉県農民連・埼玉食健連・彩の国電気・日本共産党・農業農民後援会の主催、基調講演は東京大学教授 鈴木宣弘先生でした。

鈴木先生は『農業消滅――農政の失敗がまねく国家存亡の危機』の著者でもあります。
ご実家が三重で半農半漁、先生ご自身も今も野菜も作っているし、農業・漁業の当事者だとのお話でした。 
講演時間は確か50分だったはずで、それに対して用意されたPowerPointが150枚。
しかも文字がびっしりと並んでいて、それだけでも先生の思いの強さが伝わってきます。
予定時間を大幅に超える講演でしたが、聴衆を惹きつける、学びがいっぱいの講演でした。

ただでさえ食料価格が高騰している中でのウクライナ危機。
世界の小麦の輸出シェアの4分の1を占めるロシアとウクライナ。
ウクライナは今年は種を撒くことすらできませんでした。
日本はアメリカ・カナダ・オーストラリアから輸入していますが、代替国に需要が集中し、食料争奪戦が激化することは明らかです。
食糧危機が迫る中で、日本の食料自給率は世界的に見ても極めて低い37%。
なのに岸田内閣の農業政策の目玉は「輸出振興」と「デジタル化」。
もちろん「輸出振興」も「デジタル化」も否定はしませんが、「食料自給率」との言葉がなく危機意識が欠如。
キューバの著作家・革命家のホセ・マルティは「食料を自給できない人たちは奴隷である」と言い、高村光太郎も「食うものだけは自給したい。個人でも国でも、これなくして真の独立はない」と言ったそうです。
不測の事態に国民を守れない国は、独立国とは言えない・・・。

野菜の国産率は80%ですが、種は90%海外から輸入。物流が停止してしまったら、自給率は8%に激減。
鶏卵は国産率96%ですが、餌を輸入に頼っているので、これも物流が停止してしまったら12%に激減。
ヒナは100%輸入しているので、物流が止まれば0%。
化学肥料原料のリン・カリウムは100%輸入依存で、それが調達できなくなったら国内生産は壊滅的。

米の平均生産コストは15,000円。
それだけのお金をかけて作ったお米が「コロナ困窮」のもと20万トン以上在庫が積み増され、米価は7,000~9,000円に暴落。
牛乳も2021年は全国的に生産が伸びましたが乳業メーカーに在庫が積み上がり、学校給食が休止した冬休み期間には生乳処理能力がパンクする懸念さえ生じました。
米も牛乳も実は「買いたくても買えない」人が増えていて、本当は「足りない」という事実を見過ごしてはなりません。
本来なら政府が農家から米と牛乳を買い付け、必要な人に届けるという人道支援が必要です。が、政府はそれをしません。
米について、総理が15万トンの人道支援を表明したと報道されましたが、15万トンの米を全農が長期保管した場合の保管料の支援であり、現状に対する人道支援ではありませんでした。

アメリカではコロナ禍による農業の所得減に対して総額3.3兆円の直接給付を行い、3,300億円で農家から食料を買い上げて困窮者に届けたそうです。
そもそも緊急支援以前に、アメリカ・カナダ・EUでは設定された最低限の価格(「融資価格」「支持価格」「介入価格」)で政府が穀物・乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持しているそうです。
乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持しているそうです。
日本にはそういった仕組みがありません。

国産振興こそが不可欠な今、政府は「米を作るな」と言うだけでなく、その代わりに麦・大豆・野菜・そば・飼料米・牧草などを作る支援として支出していた交付金のカットを決めました。
農業を諦める人が続出し、耕作放棄地が更に拡大し、食料自給率は更に急降下し、食料危機に耐えられなくなることはあまりにも明らかです。

多くの主婦は食の安全を求めて、国産品を買いたいと思っています。
国産品が安全だと実感しています。
しかし国の政策は食料自給を支援せず、歳出削減だけを考える「亡国の政府の財政政策が最大の国難」だと鈴木先生は断じます。
輸入小麦が大変な事態になっている中で、国産小麦は在庫の山とのことです。

アメリカでは米生産費が15,000円、市場米価が9,000円なら、その差額の6,000円が農家に支給されるそうです。しかし日本には、そういう仕組みがそもそもありません。
またほかの国なら自国の需要に応じて輸入量を調整することができますが、日本は米も生乳も余っている今この時にも米77万トン、乳製品13.7万トン(生乳換算)を輸入しているそうです。
1993年のウルグアイ・ラウンド農業合意で、輸入量が消費量の3%に達していない国(カナダもアメリカもEUも乳製品)は消費量の3%をミニマム・アクセスとして設定し、5%まで増やす約束をしているそうです。日本は3%をはるかに超える輸入があったので、その輸入量を13.7万トンの維持が義務付けられているそうです。
米も同じで、日本は毎年77万トンを必ず輸入しています。アメリカとの密約で「日本は必ず枠を満たすこと、かつ米36万トンはアメリカから買うこと」を命令されているそうです。

アメリカの指示で日本の食料自給率が低下していて、新興感染症など不測の事態で流通が止まってしまったら忽ち国民が路頭に迷うというのに、食料自給率をあげられない日本の現実。
とてもショックです。