敵基地攻撃能力とは何か?
数日前の話になりますが、10月31日(土)9条の会@よしかわ主催の学習会がありました。テーマは「敵基地攻撃能力とは何か」、講師は近現代史研究家の柴山敏雄さんでした。
9条の会@よしかわの今年初めての学習会。
今話題の「敵基地攻撃能力」、とっても良く理解できました。
少し長いですが、お話の内容をまとめました。
安倍政権はイージス・アショアの山口・秋田への配備計画を強引に進めてきましたが、6月下旬に中止が決まりました。その時からにわかに、「敵基地攻撃能力」という話が浮上してきました。
安倍首相は「防衛に空白を生むことがあってはならない」と語りました。日本人の多くは、北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とし、日本を防衛するのがイージスアショアだと思っています。それが中止になってしまったら、「防衛が空白になる」「北朝鮮のミサイルが来たら日本はお手上げ」との言い方です。そして「新たな対策を考えなくては」と言い出したのが6月18日の安倍首相の記者会見でした。
弾道ミサイルとは?
主にロケットエンジンで推進し、発射後、上昇しながら速度を増しロケットが燃え尽きた後はそのまま慣性で飛翔するため、放物線を描いて目標地点に到達する。
弾道ミサイルは、空気が非常に薄く、抵抗が少ない大気圏の高層や宇宙空間といった高々度を飛行するため、同じエネルギーでもより遠距離に到達することが可能であり、また、大気中を飛行する航空機や巡航ミサイルよりも高速となる。このため、一般的には、「長射程」、「高速」、「高々度」などの特徴を有します。
遠距離から発射され、高々度を超高速で飛行する弾道ミサイルを探知することは非常に困難です。また、極めて短時間で目標に到達することから、仮に探知できた場合でも、対処のために許される時間は極めて限定されます。
日本のミサイル防衛はどうなっているのか?
日本のミサイル防衛の体制は、一般的に二段構えと言われています。
弾道ミサイルが打ち上げられた場合、海上のSM3を打ち上げて落とす、それが失敗したらPAC3を撃って落とすというのが今の日本のミサイル防衛体制です。
イージス・アショア中止の理由は?
現在のミサイル防衛体制にイージス・アショアを加えて、三段構えにするのが今回の計画でした。イージス艦は海上から迎撃し、イージス・アショアは地上から同じように大気圏外で迎撃。それでもだめならPAC3で更に迎撃との計画です。ミサイル打ち上げの推進力はロケットです。途中で切り離されたブースターが地上に落下します。イージス・アショアも同様に、撃ち上げたときのロケットは地上に落下します。その時民家に落ちる可能性を否定することができません。中止の理由として政府が説明してきたのはこの問題です。
なぜ秋田と山口に配備?
北朝鮮が打ち上げる弾道ミサイルの狙いは日本ではありません。ハワイ・グアムのアメリカの基地を狙うのが基本的な考え方です。その最短軌道上の下にあるのが秋田と山口です。
アメリカ軍基地に向けて発射されたミサイルをここで撃ち落とすという考え方です。日本の防衛ではなくアメリカのための防衛だということがわかります。
なぜアメリカは日本にそんな要求をするのでしょう?
アメリカの負担を軽減し、日本に負担を追わせていこうというのがアメリカの基本的な考えです。太平洋の盾、日本を巨大なイージス艦にしてアメリカの防衛のために日本を位置づけるということがアメリカの中では言われているそうです。
昔、中曽根康弘元首相が日本を太平洋の「不沈空母」にすると言いましたが、その考え方と同じ発想です。
武器の爆買いへ
2017年12月、安倍内閣(当時)は突如、防衛相も知らないところでイージス・アショアの導入を閣議決定しました。前月のトランプ米大統領が訪日、安倍首相と会談し、F35戦闘機などの大量購入を約束してしまったからです。
それまで防衛省は、イージス艦とPAC3に加えてTHAADを導入する方向でミサイル防衛を考えていました。アメリカの武器を爆買いするという流れで、日本のミサイル防衛体制ができていることを確認しておく必要があります。
「敵基地攻撃」とは?
ロシア・中国・北朝鮮、アメリカも含め、ミサイルはどんどん進化しています。弾道ミサイルだけではなく、音速の何倍何十倍というスピードで飛行、ジグザグに軌道を変えながら飛行するミサイルなどが開発され、それを迎撃するのは困難です。
こうした問題から、「来る前に攻撃する」という発想が生まれてきます。
敵基地攻撃能力とは「攻撃される前に相手国の領域内にあるミサイル発射基地などの軍事拠点・軍事施設を先制攻撃して破壊する、そのための武器やシステムのことを言います。
そしてそれは、誰がどう考えても先制攻撃です。
ところが政府は「先制攻撃ではない」と言っています。「日本を攻撃しようとしていることが分かったら、それを落とす」のだから、先制攻撃ではないと。
アメリカの壮大なシステムに組み込まれる日本
ミサイルは大きな車に積まれ、普段は地下に格納されています。発射準備も固形燃料で簡単にできるようになっているようです。格納庫から車で移動し、発射準備に入ります。結局、ミサイル基地がどこにあるかなどということはわかりません。わかるようにするためには、人工衛星や偵察機などにより、常に相手の国を監視するシステムが必要です。
相手国も当然防衛装備は備えており、日本の敵基地攻撃も迎撃される可能性があります。迎撃されないためには相手国のレーダーやミサイル体制を無力化させなければなりません。そのための仕組みが必要です。それだけでもものすごい費用が掛かります。どう考えても日本だけではできません。アメリカがやらなければできませんし、人工衛星・偵察機・情報の総合整理などアメリカの壮大なシステムの中に日本を組み込んでいくことになります。アメリカの戦略の中に日本を組み込み、アメリカの先制攻撃のシステムの一部を日本が担うということが、敵基地攻撃という問題です。
単純に日本が攻撃される可能性がある、ミサイルで迎撃できないから先にやってしまえという日本だけの問題ではありません。
河野防衛大臣(当時)の国会答弁
今年7月、河野防衛大臣が「敵基地攻撃能力」についての国会答弁では、
- 他国の領域において移動式ミサイル発射基地の位置をリアルタイムに把握し、地下に隠蔽されたミサイル基地の正確な位置を把握する。
- 防空用レーダーや対空ミサイルを攻撃して無力化し、相手国の領空における制空権を一時的に確保する。
- 移動式ミサイル発射機や堅固な地下施設となっているミサイル基地を破壊して、ミサイル発射能力を無力化する。
- 攻撃の効果を把握し、さらなる攻撃を行う。
この一連のオペレーションを行うこと、そのための武器を持つことが「敵基地攻撃能力」を持つことになると説明しました。軍事のためのレーダー網・監視体制、アメリカのシステムの中に日本が組み込まれていくということを抑えることが大事です。
なぜ今「敵基地攻撃能力」か?
今年6月15日、河野太郎防衛大臣(当時)は、イージス・アショアの配備計画停止を発表しました。その直後の6月18日、安倍首相(当時)は記者会見で「敵基地攻撃」能力保有を含む新たな安全保障戦略を検討する意向表明しました。
更に6月30日には、自民党「ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)が検討を開始しました。8月4日には、自民党は「相手領域内でミサイルを阻止する能力」を保有するよう政府に提言し、安倍首相(当時)は、「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と述べました。同日、「国家安全保障会議(NSC)を開催しました。
9月11日には辞任表明したにも関わらず、安倍首相は「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」について談話を発表しました。事実上、「敵基地攻撃」能力の保有を主張し、「今年末までにあるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していく」と表明しました。
辞任を表明した首相の発言は、極めて異例のことでした。
9月16日 内閣総理大臣に就任した菅首相は組閣後、防衛大臣に「敵基地攻撃」能力を含む新たな安全保障政策の方針を年末までに検討するよう指示を出しました。
安倍首相の発言の背景にあるのは、アメリカの圧力です。
イージス・アショア配置を中止した安倍首相に相当な圧力をかけ、安倍首相は「敵基地攻撃」の実施を確約、そのためにわざわざ談話を発表したとみられています。安倍首相の実弟である岸信夫氏の防衛相就任は、この流れの中にあるものと考えられます。
8月4日自民党の検討チームの提言の特徴
自民党が敵基地攻撃能力が必要だと言い出したのは今回が初めてではありません。過去に3回(2009年、2013年、2018年)提出しています。今回は、従来のように自民党が要望し、政府が取り上げる・取り上げないという問題ではなく、政府が実施を表明し、自民党が「それではこのようにしてほしい」というのが今回の一番の特徴です。
また攻撃の対象国が北朝鮮だけではなく、中国・ロシアも加わり、むしろ中国やロシアを対象国として打ち出してきていることが、大きな特徴の二番目です。つまり米中対立激化の中で、日本に大きな役割を果たしてほしいというアメリカの意向が表れています。
従来の自民党の提言は、ミサイル防衛の一環としての敵基地攻撃を訴えてきました。今回は、独自に「抑止力向上のための新たな取り組み」という新たな項目を設け、敵基地攻撃能力を提言したことがもう一つの特徴です。
従来は日本は盾となり、アメリカは攻撃をする矛という位置づけをしてきました。しかし盾だけではなく、日本もアメリカの矛の一部を担うという考え方が、ここに表れています。
先制攻撃ではないとの詭弁=「盾」が移動しただけ論
この報告書には「敵基地攻撃能力」という言葉はありません。「敵基地攻撃」というと先制攻撃と誤解を招くとして、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」としています。
9月に小野寺元防衛相は、「迎撃がより容易かつ確実なのは、発射直後のブースト段階です。まだスピードが乗っていません。さらに確実なのは発射される前の段階です。ミサイルは止まっているのですから。盾の位置をここに、つまり相手の領空・領域に移動して守る、というのが提言の趣旨です」と発言しました。
日本は今まで、攻撃されてきたときに日本で受け止める「盾」をしていたけれど、相手のミサイル基地のところまで「盾」を移動させるということです。そこに「盾」が移動しただけであり、先制攻撃ではない、何の問題もないというのが自民党の検討チームの趣旨というとんでもない理屈です。
専守防衛から敵基地攻撃への準備はすでに始まっています。
F35ステレス戦闘機、相手のレーダーに捕まらないで飛べる戦闘機を105機もの購入が決定しています。護衛艦の空母化に向け、動き出しています。長射程巡航ミサイル、スタンド・オフ・ミサイルの購入も決定しています。
敵基地攻撃ができるような武器の買い込みは、着々と進められています。
更に数日前の自民党の報告書によると、スタンド・オフ・ミサイルだけでは不十分と、更にトマホークまで買うことも提案されています。
先制攻撃をする能力を日本が持つということ
先制攻撃をする能力を日本が持つことにより、相手国から攻撃されることは確実ということになります。攻撃されても文句の言えないという状況が作られます。
仮に敵基地攻撃をすれば、当然それに対する報復攻撃がされることになります。日本が完全に火の海になるということは明らかです。
問題から逃れるには
ではどうすれば、こういう問題から逃れることができるのでしょう。
武力と武力で牽制し合い、ぶつかり合うという悪循環をどこかで断ち切らなくてはいけません。そのためにどうしたら良いかを考えることが本当に大切です。
一つは武力外交を未然に防ぐ平和外交、日本国憲法9条を生かした外交努力にまず転換することが大切です。
二番目として、被爆国日本が核兵器禁止条約に署名・批准して、核兵器廃絶への先頭に立つことが本当に大切です。それができる政府を作っていくことが、ミサイル防衛の問題や、そこから波及する先制攻撃となる敵基地攻撃の問題も解決する最も近道なのではないでしょうか。