精神科病院の提訴の話~9月議会一般質問~

2023年10月03日

市は今年4月、近隣の精神科病院を提訴しました。
当該病院が看護基準を満たさないまま診療報酬を請求していて、国の監査でその事実が発覚し、市が支払った医療費の返還を求めざるを得なくなったための提訴です。

是正状況の確認は?

その金額は10,582,908円で、当該病院はこの金額の2割程度の金額を10年かけて返済するというような話をしていて、全額きちんと返済してもらうためには提訴せざるを得なかったということです。
市が当該病院に支払ったお金は私たち市民の税金によるものなので、返還を求めるのは当然のことです。全額返済されないとなれば、提訴するのも当然のことだと思います。
ただ気になるのは、今現在看護基準は満たされているのか、不適切な経営状況は是正されたのかという問題です。
もし是正されていなければまた同じ損失を被りかねないわけで、やはりそこの確認は重要だと思うのです。
9月議会、一般質問で私はこのことを問いました。
市の答弁は「市は医療機関の運営基準が順守されているかについて知り得ない」というものでした。
「今回の不正請求は厚生労働省関東信越厚生局長が実施する適時調査により、診療報酬の不当請求が発覚した」ものであり、調査は国の責任において行われるものであり、市はその立場にはない・・・。

市が言っていることはわからないわけではありません。
行政はいつも縦割りで、国の役割・県の役割・市の役割がそれぞれ分担されていることはわかります。
だけど誰も是正状況を確認もしないで、もしかしたらまた3年後に同じ不正が発覚して市が損失を被るリスクもあるわけで、是正されたのかどうかを誰かが確認しなくてはいけないのではないでしょうか。

診療報酬の安さも一因では?

それにしても、なぜこんな問題が起きたのでしょうか。精神科病院の診療報酬の安さも一つの原因だったのではないかと思います。
精神科医療の診療報酬は他の診療科と比較しても、異常に安いのです。
そうなると精神科onlyの病院では当然看護師の賃金も安いでしょうし、募集しても募集しても看護師の応募がないという状況は容易に想像することができます。
もしかしたら、そんな状況があったのではないかと想像します。

モラルハザードの問題

ただ不安に思うのは、看護基準が満たされない状況で入院患者さんたちへのしわ寄せ、不利益はなかったのかという問題です。
人手が足りなければ、一人ひとりの患者さんに丁寧に対応することは困難です。
「身体拘束」、つまり不必要に患者さんを縛り付けるとか、不必要な処方によって患者さんの自由を奪うとかの行為がなかったのかどうかもとても気になります。
これは入院患者さんの人権を考えるうえで、とても大切な問題だと思います。
市の答弁は「今回の件は厚生労働省も重く受け止めていると認識している。今後も何か再発防止なり指導監督の強化なりは考えていただけると思っている。市としてできることは起こった後のことについてしかるべき手段を講じることに限られており、しっかりとやっていきたい」というもので、患者さんの人権が本当に守られているのかどうかは全くわかりません。

滝山病院の教訓

今年2月に八王子市の滝山病院で、深刻で悪質な患者虐待が発覚しました。
滝山病院は前々からあまりよろしくない状況が噂になるほど明らかだったのに、誰もその状況を改善させるための手立てがとれずに来た結果、悪質な治療・カルテ改竄・虐待が進行していました。人権派の弁護士が身を挺して乗り込んで初めてそれが社会問題になり、看護師の逮捕にも繋がったという大雑把に言うとそんな事件でした。
もちろん当該病院が滝山病院と同じだとは思いません。そういう病院ではないとも思っています。
ただベースにある精神障害者の長期入院の問題、診療報酬が安すぎるという問題、そして医療機関側のモラルハザードの問題と、根本にある問題は非常に近いのではないかと思います。
だからこそ今、しっかりと誰かが責任をもって当該病院の状況を確認し、再発防止に努めるべきではないかと思います。

伴奏型支援を

市の答弁は、まさにその対策が提訴だったというようなものでした。
決められたとおりに事業を実施するのは大前提とも述べました。
その答弁も全くわからないわけではなく、基準通りに事業は実施しなくてはなりません。
でも、それができないのでこの状況に至っているのではないでしょうか。
その医療機関に対して本当に必要なことは、その病院が看護師を基準通りに配置するにはどうしたら良いのかを共に考える、伴奏型の支援のような気がします。

その医療機関を罰してほしいのではありません。
精神障害者を地域で支える、大切な病院です。
その病院が不正をしなくてもちゃんと事業を継続できるように、精神障害者の方々がいざという時に頼ることのできる場であるように、自己研鑽をサポートするような仕組みが欲しいと思う私です。