雪の降る日の訪問看護の記憶

2024年02月06日

昨日、天気予報通りに午後から雪が降り始め、夕方には積もり始めました。
雪はしんしんと着々と降り積もり、首都圏の交通はマヒし、大変な夜となりました。
私は夕方からは家にこもり、細々とした仕事を片付けながら、降り積もる雪を見つめて過ごしました。
そして不意に思い出したのが、もう25年くらい前の雪の日の訪問看護でした。

90年代後半、まだ介護保険制度が始まる前の話で、がん末期の方が自宅で最期を過ごすことを選択することが少しずつ増え始めたころの話です。
前日の夕方病院を退院して自宅に戻ってきたがん末期の方は、どう見ても残された時間は「時間単位」でした。
明日の朝は迎えるかもしれないけれど、明後日があるとはとても思えない状況でした。
しかも、ご家族はそれくらい切羽詰まった状況だということを全くご存知ありませんでした。
勤務時間が終わり、帰宅しようとしている主治医に懇願して急遽訪問診療をしてもらい、厳しい状況を説明してもらいました。
これからどんな変化が起きるかということを説明し、不安になったらいつでも訪問看護に連絡してくださいという説明をしました。
その時も午後から雪が降り始め、夕方には積もり始めました。
その日の携帯当番は私でした。
夜中の2時過ぎに携帯が鳴り、その方がどんどん最期に向かう変化をされていることと、ご家族が不安でとても看ていられないと言われました。
ご家族に安心して看取っていただくためにも訪問に行かなくてはと自宅の玄関を開けたところ、外は人の足跡一つないまさしく白銀の世界⛄⛄⛄
車で出かけることも憚られ、がんばれば歩いて行けるような距離だったので小一時間かけて降り積もった雪をかき分けながら歩いて訪問。
到着するとその方は最期の呼吸をあえぎながらしているような状況でした。
改めてこの後どんな変化が起きるかを説明し、耳は最期まで聞こえること。ご本人が安心して旅立つことができるように、最期まで話しかけてあげてください。そして呼吸が止まったら、改めてまたご連絡くださいと説明して、また小一時間かけて帰宅。
帰宅したころにはもう5時を過ぎていたと記憶していますが、また6時ころに電話があり、呼吸が止まったとのことでした。
そしてまた小一時間かけて訪問し、亡くなられたことを確認。
主治医に連絡をして死亡確認のために訪問に来てほしと依頼。
主治医からは雪のためすぐには行けない、午前中には行くとのことで、私はまた小一時間かけて帰宅。
そして主治医が午前中に訪問して死亡確認したことを確認して、改めてまた小一時間かけて訪問。
ご家族と一緒にお身体をきれいにして、旅立ちの衣類に交換して、ご家族を労ってまた小一時間かけて帰宅。

その日は雪の中を歩いて3往復もしてとっても大変だったということと、退院した翌朝にご家族としては思いもしなかった看取りを不安の中で迎えられたという現実。それでも一生懸命説明をして、ご家族は何とか一生懸命対応してくださって、それなりに落ち着いて最期を迎えることができたと安堵の声をいただいたことなど、未だにリアルで忘れられない記憶です。
訪問看護は単にご自宅での最期の時間をサポートするというだけでなく、大雪だろうが台風だろうが必要があれば行かなくてはならない仕事で気象とも向き合わなければならない大変な仕事でした。
それだけにやりがいも大きな仕事ではあったと思います。

降り積もる雪を眺めながら、そんなことを思い出しながら過ごした一夜でした。
その頃と比べると今は入院日数の短縮はさらに進み、医療依存度の高い方が在宅での生活を選択することもさらに増え、在宅医療には在宅看取りが大きく期待される状況です。
訪問看護の大変さはあのころとは比べ物にならないのではないかと思います。
昨夜もきっと、雪をかき分けながら在宅療養者のご家庭に向かった看護師さんがきっとたくさんいたことと思います。