『ナチス刑法175条』

2024年04月19日

『ナチ刑法175条』を観ました。

「自然に反する猥褻行為」を犯罪とする刑法は、既に神聖ローマの時代から存在したそうです。ドイツ帝国もこれを犯罪としましたが(刑法175条)、ナチスは更に男性同性愛者を「ドイツ国民を堕落させ、弱体化させる危険な病」と見做しました。そして刑法175を改正し、眼差しや触れ合いだけでも逮捕できるようになりました。ゲシュタポの中に特殊部隊を置き、同性愛者を監視しました。
この映画はナチ政権下での男性同性愛者の弾圧の事実を、6人の男性同性愛者と1人のレズビアンとが語るドキュメンタリー映画です。

この法律の下で約10万人が逮捕され、1~1.5万人が強制収容所に送られ、強制労働や男根切除などの医学実験に使われ、生存者は4,000人。1999年にこの映画を作る際に確認できた生存者は10人に満たなかったそうです。
収容所の中でユダヤ人がダビデの星を意味する黄色い星型のワッペンを付けさせられたのは良く知られるところですが、男性同性愛者はピンク・トライアングル(ピンクの三角形)のワッペンを付けさせられたそうです。緑は犯罪者、赤は政治犯、黒は反社会的分子、茶色はロマ、紫はエホバの証人だったそうです。
男性同性愛者は収容所の中のヒエラルキーの一番底辺に置かれ、ひどい嫌がらせや虐待・レイプに曝されました。映画の中でも一人の方が、25センチもの棒をお尻に突っ込まれ、障がい出血に苦しめられたと証言しています。
被害に遭った方々はこうした事実を口にすることができず、この映画の作成にあたって初めて話すことができたという方もいらっしゃいました。

ナチス政権が終焉を迎えても「刑法175条」、東西ドイツで1968~69年ころまで残り、撤廃されたのはドイツ統一後の1994年でした。同性愛を理由に殺害された人びとがいた、その事実が公式に認められ追悼されたのは1985年。同性愛で有罪になった人々を赦免する法律が成立したのは2002年になってからでした。
ナチス政権下、それからそういう歪んだ政治のもとに生まれた同性愛者への差別意識が長期にわたって解消されることがなかったという事実がとても悲しく思えました。
が、腹が立つのは女性の同性愛者=レズビアンがこの法律の対象とされなかったのは、女性同性愛者は「矯正可能」と見做されたという事実です。
要するに女性はその性的思考がレズビアンであっても、無理やり押さえつけて性交渉させることはできるし、そうすれば子どもも産める。社会の害悪にはならない。男性同性愛者は女性に子どもを生ませることができない。だから「国を弱体化させる」という発想。
日本の「慰安婦」問題は公娼制度の延長線上にあり、一般の女性は結婚して主婦となり、貞淑を守り、子どもを生み育てるもの。
しかし男性の遊びを保障するために娼婦は必要で、でもその存在は社会的侮蔑の対象・・・。
上手く説明できませんが、根底にある思想は同じだと感じます。