訪問介護事業所の経営を守れ!

2024年03月08日
これまた随分昔の話になりますが、2000年代中盤、私はこの吉川市でとある介護事業所の所長をしていました。

介護保険制度のスタートからは少し出遅れた新規事業所で、当時まだそれほど高齢化も進んでいなかった吉川市では利用者の確保にかなり苦戦していました。
前の年にそれまで働いていた訪問看護ステーションを退職していた私は、パートでその職場に就職したのでした。でも様々な事情があり、数カ月後にその職場の所長になりました。

当初訪問介護とケアマネだけの事業所でしたが、特徴のない事業では利用者の確保は一層困難と考えた私の提案が採用され、一軒家をお借りして、定員一日8人という小規模なデイサービスをスタートさせました。
日中独居の重い認知症の方や、医療依存度の高い若年の方々にもご利用いただき、やりがいも大きく、日々学ぶことの多い、とても楽しい毎日でした。
が、デイサービスを併設しても経営状況は厳しく、法人全体の経営状況の問題もあり、その事業は廃止を余儀なくされてしまいました。
本当に残念で、あの悔しさは今も忘れられません。

その後私はとある今で言う中核市に移動し、訪問看護ステーションの管理者になりました。
そのとき本当に心から驚いたのは、名刺一箱が1ヵ月も経たないうちになくなってしまったことでした。
吉川では、約5年の間に使用した名刺は3箱でした。
大きなまちにはそもそも顧客がたくさんいて、関連の仕事をする人もたくさんいて、こちらがその気になりさえすればいくらでも利用者確保は可能でした。
今度はこの仕事を一緒にしてくれる、職員確保の大変さに悩みましたが。

そんな私にとって、この記事は本当に良く理解できます。

厚労省は来年度の報酬改定で、訪問介護の報酬を2~3%引き下げようとしています。
訪問介護事業が他の事業よりも高い利益をあげているということを根拠とした報酬改定です。
1カ月の訪問件数が2001回を超える大規模な事業所の収支差率は13%台。
ところが、全ての訪問介護事業所の収支差率の平均は7.8%で、中央値は4.2%。
1カ月の訪問件数が400件に満たない訪問介護事業所の収支差率は1%台。
大手の事業所の収支差率が平均値を引き上げているにすぎず、37%の事業所は赤字状態。
昨年倒産した訪問介護事業所は60件を超えました。

吉川市には訪問介護事業所は8カ所ありますが、その他にも越谷市や三郷市などから乗り出してきている事業所があるものと思われます。
そして吉川市の「第8期高齢者福祉計画・介護保険事業計画」に位置付けられた、令和7年度の訪問介護件数は約7,500回。
全ての訪問を市内事業所で賄ったとしても、1事業所の平均訪問回数は約940回。
2001回には到底及びません。
市内のほとんどの訪問介護事業所は赤字またはそれに近い経営状況であることが想像され、今回の報酬改定で更に深刻な経営状況になることが予期されます。

厚労省は「制度の持続可能性」を重視し、高齢化が進んでいるのに介護保険への公費の投入を渋り、安上がりに仕上げることばかりに執心しています。
その結果介護保険制度は保険料の負担は重く、そこで働く職員の報酬は低く・・・。
訪問介護もケアマネも働き手の不足と高齢化が深刻な状況です。

この状況を本気で改善しなければ、いつしか制度はあってもその制度に従事する事業所がなくなってしまうような事態を招きかねません。
月に2000回を超える訪問介護事業が展開できるのは、人口が集中した大きなまちだけだと思います。
吉川市のような人口規模の小さなまちでも訪問介護事業所が経営を維持できるように、市には頑張って国に発信していただきたいと思います。
昨日の文教福祉常任委員会、私はかなり力を入れてこの発言をしました。

介護保険制度がこんなに深刻な状況にあるというのに、介護保険特別会計予算に反対したのは私だけでした。
本当に残念です。