『被爆80年:核抑止との決別 被爆者と共に被爆の実相を語り広げる』

2025年08月11日

先日の自治体学校の書籍コーナーで、担当者の方が「原水爆禁止世界大会起草委員長、関西学院大学の冨田宏治先生の最新本ですよ~!」と声を張り上げて販売していました。「気さくな先生ですよ~!」とも。
実は学生時代から冨田さんは存じ上げていて、Facebookでも繋がっているし、たまに悩むことがあると連絡して相談させていただいています。
ちょこちょこ名前が出てくる方でもありますが、今回改めてこんな大活躍の方なんだと認識し、慌てて買って帰りました。

今年1月11日に京都で開催された京都原水協の集会での講演を基にして書かれた本とのことで、ひとに聞いてもらうことを前提として書かれている文章だからだと思うのですが、とても読みやすかったです。

被爆者の方々の具体的な発言やノルウェイ・ノーベル委員会の発表、ローマ教皇の発言やグレーテス国連事務総長の公式発言、ウィーン宣言などなどが具体的に紹介されていて、主張の根拠が明確に記されていて、とても分かりやすかったです。私が感動した一節をご紹介したいと思います。
「私が学生の頃のことです。アメリカの公文書館に眠っていた広島・長崎の記録映像を市民の募金によって10フィートずつ買い取って。「人間をかえせ」とか「予言」といった映画に編集し、上映運動を行っていた頃の話です。
遠藤泰夫さんという被爆者の方とその映画を鑑賞していた時でした。私ははじめて目にした広島・長崎の記録映像にほんとうに胸がつぶれるかと思うほどものすごいショックを受けていました。今私たちが目にする原爆写真の多くは、この記録映像から採られたもので、ほんとうにこのとき、私たちは広島・長崎の光景をはじめて目の当たりにしていたのでした。
でも、私の隣で映画を観ていた遠藤さんがほそっと「こんなもんじゃぁなかった」と呟かれたのです。あとでその理由をうかがうと遠藤さんは、「においがない。からだにまとわりつくような空気がない」とおっしゃられたのです。わたしは思いっきりガツンと頭を殴られたような衝撃を受けました。そうなのです。8月6日・9日の広島・長崎、真夏の盛りの広島・長崎には、焼け焦げたご遺体からどのような「におい」が立ち込めていたのだろう。町中が火の海となった焼け跡には、どんな空気が漂っていたのだろう。
わかったつもりになっていなかったか。「被爆の実相」は、人間の想像力の限りを尽くして、いや人間の想像力の限界を超えて、はじめて知ることができるのではないか。この遠藤さんの呟きが、以来40数年にわたって私が原水爆禁止運動にハマった原点だったのです。

・・・とても胸に沁みる一文でした。

原爆で家屋が倒壊し、その中に家族が取り残され、目の前で火災に呑み込まれていく。「はだしのゲン」に描かれた場面は誰か一人の特異な経験ではなく、あちこちにごろごろと転がっているという事実。目の前で家族が焼き殺されようとしている時に逃げざるを得なかった事実に、被爆者は一生苦しみ続けているという事実。

被爆者は人が喜んでいる時に苦しむという事実。例えば結婚するとき、本当に結婚して良いのか。子どもを産むときも、本当にこの子を産んで良いのか・・・。

「原爆被害者の基本欲求」の中に、「原爆は人間として死ぬことも、人間らしく生きることも許しません。核兵器はもともと『殲滅』だけを目的とした凶器の兵器です。人間として認めることのできない、絶対悪の兵器です」と書かれているそうです。

こうした事実にも、とても胸が痛みました。

ロシアにイスラエルにトランプに、日本の先日の参院選での候補者へのアンケート調査で「核兵器を保有すべきだ」と8人が回答したとも報じられています。核戦争が起きるのではないかという不安が高まっています。
そういう中で、核兵器禁止条約の批准国は73か国に広がり、署名は既に98か国に登っているそうです。あと2つ署名が増えれば100か国になり、世界190余りの国の半分が批准する過程を通る・・・。核兵器禁止条約に批准した国が過半数になったら、それが3分の2を超えたらどうなっていくのか。

最後に必ず、アメリカ・イギリス・フランス・中国・ロシアの5つの国の内のどれかが残る。この5つの国が核兵器禁止条約に参加し、世界の全ての国の批准が達成された時、「核兵器のない世界」が達成される。

もうここまできている。すごく遠い話をしているわけではない。ゴールが見えている。このゴールに向かって前へ前へと進んでいきたい。

事実を直視しながら、非常に力強く勇気と希望を与えてくれる、そういう一冊だったと思います。
読んで良かったです。