『ホームレスでいること 見えることと見えないことのあいだ』

2025年11月18日

現役のホームレスの方が書いた本、『ホームレスでいること 見えるものと見えないものとのあいだ』(いちむらみさこ著 創元社)。

ホームレスと言うと何となく、困難な状況の中で収入を失い、家賃が払えなくなって住む家を失い、最初はネットカフェなどを転々とするものの、次第にそれも厳しくなって、やがて野宿生活にたどり着く・・・というようなイメージを勝手に抱いていました。
勿論そういう人も多いのかもしれませんが、少なくともこの著者は自ら野宿生活を選択してホームレスになりました。
失ったのではなく、手放したのです。
そして同じく野宿生活を営む女性たちと物々交換カフェやティーパーティを開いたり、使われていない絵の具や筆を利用してみんなで「絵を描く会」を開いたり。それも定期的に。
そこには互いに気遣い合ったり、援けあったりする、とっても豊かな人間関係・コミュニティが存在しています。

ホームレスを襲撃する人もいます。
襲撃する人は「強い立場」を利用して暴力(石を投げるとか、エアガンを撃つとかも含めて)を奮ってきます。その人との出会い方をやり直す・・・。
暴力を振るわれて黙っているのではなく、対話をする、遊びに来てもらう、知ってもらう・・・。

2020年(実際に開催されたのは21年でしたが)の東京オリンピック・パラリンピックに向けて渋谷区の宮下公園に住むホームレスたちに荷物撤去の警告書が出された2019年、みんなで区役所に何度も足を運び強制撤去はしないよう交渉を進めていたそうです。
ホームレスへの襲撃や追い出しが気になる中で、ホームレスもそうでない人も「一緒に食べる」という企画を思いつき、実践。
それぞれが少しずつ何かを持ち寄り、それをみんなで調理してみんなで食べて交流する。
そしてそこに何らかの関係ができていきます。

健康で文化的な最低限度の生活が憲法で保障され、誰もが生活保護をはじめとした福祉サービス、社会保障を受ける権利があります。でも、それを受けるかどうかを決めるのはその人個人であって、野宿生活の方がずっと自分らしく居られて幸せだと思う選択肢も当然あり・・・。
明らかに重症な病気で、みんなが病院に行った方が良いと勧めても、どうしても行かない人もいます。
多分自分でも先は短いとわかっていて、それでも最期の最期までここにいたい、そこが自分の居場所だと心から思う人もいて、人の選択は全くそれぞれだということ。
何よりも野宿生活は私たちが一般的に想像してしまうような孤独なものとは限らず、温かく豊かな社会がそこにもある・・・。

そんなことを学んだ一冊でした。生協のカタログでたまたま発見し、購入した一冊です。