映画『黒川の女たち』の舞台、黒川に行ってきました

2025年12月13日

少し前の話になってしまいましたが、先月21~22日、「慰安婦」問題とジェンダー平等ゼミナールのフィールドワークで長野県阿智村の満蒙開拓平和記念館と岐阜県の黒川に行ってきました。

黒川は、この夏に公開された映画『黒川の女たち』の舞台の黒川です。
敗戦時の満州で中国人の襲撃から身を守るために、若い女性たちにソ連兵への性接待が求められ、その結果黒川開拓団は無事に帰国を果たすことができました。
2013年、満蒙開拓平和記念館での語り部の会で被害を受けた佐藤ハルエさんがこの体験を語り、また安江喜子さんも自らの体験を語りました。
安江喜子さんは以前、性接待を強いられ、故郷の地を踏むことなく現地で亡くなった4人の女性を弔う碑の建設を求め、その願いは1982年に「乙女の碑」の地蔵菩薩建立という形で実現しました。
4代目遺族会会長の藤井宏之さんは、被害を受けた女性たちの「後々まで事実を残してほしい」との思いを受け止め、「乙女の碑」の横に事実を記した碑文を建てることを決意。2018年の秋にその碑文が完成した・・・。

とっても大雑把に言うと、そんな映画です。
この事実は2017年、NHKEテレで放送されました。また、その後『告白』(川恵美 NHK取材班)『ソ連兵へ差し出された娘たち』(平井美帆著 集英社)が出版されました。
私はテレビも観ていたし2冊の本も読んでいましたが、黒川という地が私の実家からあまりにも近い所なので、センセーショナルな事実ばかりが私の心に残っていました。
実は同じように女性をソ連兵に差し出して命を繋いだ開拓団は他にもあったようです。
しかし命を守ってもらうために女性の性を差し出すという発想にどうしても違和感が否めず、何を読んでも事実を直視することができずに来たような気がします。

今回黒川では安江菊美さんと藤井湯美子さん、お二人からお話を伺いました。
安江菊美さんは当時まだ10歳だったので性接待は免れ、差し出された女性たちのためにお風呂を焚いていた女性です。
藤井湯美子さんは4代目遺族会会長 藤井宏之さんのパートナーさんで、宏之さんとご一緒に被害女性たちの思いを受け止め、碑文の作成にご尽力された方です。

湯美子さんのお話をめちゃくちゃ要約すると、
★満蒙開拓平和記念館の解説を報道した中日新聞には、「今伝えなければならない」と書かれていて、その言葉に深く共感したこと。
★(碑文建立に対して)3代目遺族会会長は「俺の目が黒いうちは、そんなことは絶対にさせない」「満州を知らないものが口にする出ない」と言っていた。黙っているのが彼女たちのためだと言いながら、15人の被害女性たちの心の底を除こうとしていなかった。なかったことにしたかった。★彼女たちの心が安らいでいたなら。安らいでいなかったから碑文をつくった。
★世の中に何かを問うために作った碑文ではない。自分たちの命がこうして繋がれたこと。集団自決しなくて良かった、救われた命なんだと2世3世4世にも思ってもらえる、そのための碑文。
★彼女たちの「この次生まれて来るときは、戦争のない平和な世界に生まれたい」との思いを受け止め、黒川の子どもたちが平和な世界を築いていかなくてはいけないと心から思い、それを伝えていってもらえればと思って作った碑文。
★みなさんの心の中に何か一つでも灯るものがあれば。そういう気持ちで、子どもたちの生まれてきた命がともる、そこに繋がれていく、ということの大事さを伝えたかった。

私は改めて、センセーショナルな一面だけをとらえていた自分に気付き、また湯美子さんの思いの深さに胸を打たれ、何度も涙をぬぐいながらお話を聞かせていただきました。

今年90歳の安江菊美さんは背筋がピンとしていて、とてもかっこいい女性でした。
満州から引き揚げて来てから、シベリアに抑留されていたお父さんが帰ってくるまでのとても貧しい暮らしを語ってくださいました。
『黒川の女たち』が公開されて、映画を観た友人たちが「あんたたちは苦労したんだね」と労ってくれたことや、同じように家族が満州に行った人でも性接待を強いられた女性たちがいて、命が繋がれたことを知らなかった人もいたこと。今も毎年小学校6年生のみなさんに、語り部の活動をしていること等話してくださいました。

参加者の方の中から、碑文には被害の歴史と同時に侵略の歴史もきちんと綴られているが、どうしてこのような碑文をつくることができたのかという質問がありました。
湯美子さんの答は、「胡桃沢伸さんという方から、両方をきちんと書かなくては不公平になる」というようなアドバイスをいただき、こうした碑文ができたとのことでした。胡桃沢伸さんは私が追っかけをしていて、このブログにもちょくちょく書いている精神科医で劇作家のくるみざわしんさんです。
今回のフィールドワークの1か月前にも、「慰安婦」問題とジェンダー平等ゼミナールのゼミにお招きしてご講演をお願いしたくるみざわしんさんです。
このご回答をいただいたとき、参加者のみなさんから「あ~、なるほど!」というような声が上がったことが印象的でした。