『脂肪のかたまり』

2025年08月15日

モーパッサンの小説『脂肪のかたまり』(岩波文庫)を読みました。

この小説の存在を知ったのは、「慰安婦」問題とジェンダー平等ゼミナールを主宰する吉川春子さんのお話しからでした。
先月開催した『マリヤの賛歌―石の叫び』吉川公演のプレ企画として、6月7日に吉川さんをお招きして「『慰安婦』問題と日本社会」という学習会を開催しました。
学習会が終わった後、一人芝居『マリヤの賛歌ー石の叫び』の作者であるくるみざわしんさんと吉川春子さんを交えて軽く食事会をしました。その席で『黒川の女たち』の話題となり、全く同じことを1800年代にモーパッサンが『脂肪のかたまり』という小説に描いていると吉川さんが教えてくださったのでした。

困難な場面で立場の弱い女性に「性」を提供させ、安全が確保されると今度はその女性を蔑む。
そういうことが昔から行われていて、今なお続いているという事実の愚かさ、醜さ、衝撃・・・。
そんなことを吉川さんはその場で語られたと記憶しています。

私は家に帰ってすぐにこの本を注文したのですが、なかなか落ち着いて読む機会がなく、ようやく読み終えることができました。吉川さんがおっしゃったとおりのお話でした。

窮地を凌ぐために誰もが、一人の女性にその場の権力者への「性」の提供を求める。最初は彼女が断る気持ちもわからなくはないが、次第に「なぜ提供しないのか」と怒りが涌くようになり、どうしたら提供させられるかと策を練り、説得をする。
とうとう女性が求めに応じると、飲めよ歌えよの大はしゃぎ。
そして問題が解決すると女性を穢れた何かのように扱い、無視をして、とどめの言葉は「恥ずかしくて泣いているんだろう」!!

とても悲しく恥ずかしく残念な人間の一面を、当時30歳だったモーパッサンが短い小説にまとめ上げています。すごい作品だと思いました。

吉川さんは確か高校生の時にこの本を読んだとおっしゃっていたと思います。
私も本ばかり読んでいるような高校時代を過ごした気がしていますが、この本の存在は全く知りませんでした。それにもし読んでいても、その頃に読んだ本と今現在の問題とを結びつけて考える力が自分にあるようには思えません。
吉川さんは長年日本共産党の参議院議員として活躍された方ですが、それは読書と読書力とに裏打ちされた力があったからこそなんだろうなぁと今更ながら思いました。