特別養護老人ホームあずみの里、ドーナツ裁判逆転無罪

2020年07月28日

2013年、特別養護老人ホーム「あずみの里」で、おやつのドーナツを食べて窒息したとして、准看護師が在宅起訴されました。一審で准看護師は「注意義務違反」に問われ、罰金20万円の有罪判決を受けました。
これが有罪とされてしまったら介護の現場が委縮してしまうと大変注目された控訴審は、今日判決が下されました。
判決は、逆転無罪でした。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/45464?rct=national

良かった(⋈◍>◡<◍)。✧♡
歳をとっても、障がいを負っても、最期までその人らしく活き活きとした生活を送ることができるように、「生活の質の向上」を目指し、その方の持つ「リスク」と「生きる悦び」の狭間で支援をするのが介護の仕事です。その現場では、看護師・准看護師・介護職員が力を合わせ、「生活の質」「生命の質」「人生の質」と真摯に向き合い、働いています。
その仕事に個人的な責任が問われ、「前科」が負わされるような社会になってしまってはいけないと思います。

もう30年近く昔の話になりますが、私の父は脳梗塞を患い、重い認知症になりました。
発症当初は、結婚前に私が務めていた名古屋の病院の精神科病棟に入院させてもらうことができました。入院が長期化したときに、愛知県の渥美半島の先端にある特別養護老人ホームに移りました。
とても温かく介護していただきましたが、認知症も重く、体力低下も著しく、間もなくとても厳しい状態に陥っていきました。
その時施設の方が、「最期に好きなものを食べさせてあげたい。何が好き?」と聞いてくれました。好きなものって、お酒と刺身くらいしかないと思うと話したら、施設の方はすぐに市場に刺身を買いに行ってくださいました。
そしてお酒も、他の入所者の方には晩酌してもらっているけど、あなたのお父さんは晩酌ができないから、朝からチビチビ行きましょう💕と言ってくださって、本当に朝からチビチビお酒を飲み、新鮮な刺身を食べさせてくれました。

その効果か、父は一時危険な状態を脱しました。

正直なところ、私は父を未だに好きになれません。良い思い出がありません。
でも父が最期に受けた温かい介護は、看護師として働く私の、看護・介護に対する考え方に大きな影響を与えました。
訪問看護やデイサービスの仕事の中では、利用者さんやご家族、それからスタッフの皆さんと一緒に「その人の持つ可能性」について語り合いました。
医師からは「栄養摂取という意味で食べれるようにはならないだろう」と言われながらも、「食べれるようになりたい」と願う利用者さんと一緒に、どんな食事なら安全に食べれるのかを模索したことは、私にとってとても貴重な経験となりました。
神経難病を患い、膀胱に留置されたカテーテルをどうしても外したいと願う利用者さんと話し合いを重ね、留置カテーテルを外しました。その代わり、どんなに大変でも自分でトイレまで行って、「間歇自己導尿」という、ご自身で震える手でカテーテルを挿入し、オシッコを出すということを一日に何度もしなくてはなりませんでしたが、それでもカテーテルを抜いたことをとても喜んでくださったことも忘れられない経験でした。
がん末期で食事が摂れなくなってしまった年配の方が、「食べたい」とおっしゃったとき、私の尊敬するある先輩看護師は、長芋と大根をすりおろし、そこにご飯を混ぜてしょうゆをほんの少し垂らして出しました。
「おいしい」というその方の一言とその表情が、未だに忘れられません。

看護・介護の現場では、みんながそんな風に少しずつ何かを工夫しながら、一人一人の患者さん・利用者さんが「良かった」と思えたり、ホッとしたり、安堵する一瞬を共有したいと考えながら仕事をしていると思います。
そういう仕事が委縮していってしまったら、私たちみんなの老後の豊かな生活そのものが脅かされるように思います。
「最期にドーナツが食べれて良かったね」「おいしかったね」と、お互いを労いあえる社会であって欲しいと思います。

ドーナツの裁判の話とは少し違うかもしれませんが💦