奇形猿は訴える

2021年08月05日

『奇形猿は訴える―人類への警告ー大谷英之写真記録集』、出版はよつば連絡会出版局です。
昭和52年の発行でちょっと古い本ですが、猿さんの表情に胸打たれ、手に取らずにはいられませんでした。

高崎山(大分県)で最初に奇形猿が発見されたのは、昭和32年だったそうです。
以後、観光用に餌付けしている全国各地の野猿公苑で奇形猿が発現し、その時期は人間の先天性四肢障がい児(サリドマイド)が発生した時期と一致しているそうです。

ショックだったのは昭和46年、みかんが大豊作。
出荷しきれず大量に廃棄したみかんを食べた野猿から、翌年多くの先天性四肢退行異常(奇形)が生まれたという話でした。
みかんの殺虫剤として使われたのはフッ素の農薬で、3か月後に刈り取って牛に食べさせると、牛でさえ倒れてしまう劇薬だったそうです。
更にその前の昭和42年には、和歌山県下でみかん山にフッ素農薬を5時間散布した18歳の少年が、急性中毒で亡くなるという事件が起きていたそうです。

カメラマンの大谷英之さんは奇形猿を撮り続けるうちに、奇形と複合汚染の関係を確信するようになり、「明日は我が身か」と思わざるを得なかったとあとがきに記しています。
「奇形猿の発現は、生命あるもの全てに発せられた警告であり、生きとし生けるもののために、我々現代人は一人一人がこの事実を真摯に直視し、各々の立場で即刻、生命を守るために行動を起こすべきではないだろうか。躊躇している時間は、もう寸秒しかないのである」。
これも、あとがきに記された大谷さんの言葉です。

この本が出版されてから約45年。
今、農薬は猿さんや動物たち、自然環境、そして人間に対して害のない安全なものが使われていると言い切れる社会になっているでしょうか。

浸透性・残功性・神経毒性が問題視されるネオニコ系農薬の使用。
アセチルコリン受容体を阻害することで、昆虫を殺すという農薬です。
アセチルコリンはヒトでは自律神経系・末梢神経に多く、記憶や学習、上道など中枢神経でも重要な働きをしています。近年、免疫系や脳の発達にも重要な働きをしていることが明らかになっています。
更に成長ホルモンやステロイド剤や抗生剤を使用した肉類。 
こうした薬剤を使用した野菜や魚肉が、私たち人類に、そして自然環境にどんな影響を及ぼすことになるのか・・・。
「事実とちゃんと向き合え!」。
猿さんたちの目が、そう訴えているように感じます。