『生活保護リアル』

2020年04月07日

一番最近読み終えた本は、『生活保護リアル』(みわ よしこ著 日本評論社)です。
このところ貧困関係の本をたくさん読んだので、そろそろ違う系列の本を読もうと思っていたのですが、先日安倍首相と親しい百田尚樹氏がこんなツイートをしているのを見かけ、思い直して貧困にこだわり続けることにしました💦

なぜ、こんな生活保護バッシングをするのでしょう。
なんだか、生活保護受給者に対する「憎しみ」さえ感じられてしまうような、非常に深いなツイートです。
きっと、生活保護の現実を全く知らないんだと思います。

この本は、こうしたバッシングや誤解が多い生活保護の実態を、多角的に描き出した一冊だと思います。

生活保護が憲法25条、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための者であり、国民の権利だということは誰でも知っていることだと思います。
しかし誰でもが受給できるわけではなく、受給するためにはその公平さを担保するために、「ミーンズ・テスト」が行われています。
ミーンズ・テストでは、「ありとあらゆる種類の資産・能力を稼働させて、なおかつ困窮するかどうか」が試され、それに合格しなければ「生活困窮者」と認定されることもなく、生活保護の対象ともなり得ません。

生活保護受給者が「怠けていて、働きもせず、保護を受けて楽々と生きている」と勘違いされていたり、誤解されていたり、先ほどのツイートのようなバッシングをされたりという現実があります。
しかし、そうではなく、むしろ頑張って働いているのに、保護を受けなければ生活が成り立たないような状況の中で働いている人がたくさんいるという現実があります。

なぜそうなっているかと言えば、「ミーンズ・テスト」に合格した段階で「ありとあらゆる資源を利用しつくさなくてはならない。そうすると、生活保護受給者となった後では、自立のために利用できる資源は何一つ残ってない」という矛盾があると、著者は指摘しています。
「生活保護では『最低限度の生活』を保障するにすぎないので、自立のために利用できる資源が何一つ残っていない」と指摘しています。
また、生活保護受給者が職を求めても「生活保護受給者」と判った途端に先方の態度が変わり、就職を断られてしまうケースも少なくないことが紹介されています。

この本は2013年に出版されたもので、データが少し古いのですが、2010年の生活保護受給者のデータによれば、
高齢者世帯   42.9%  (2017年 53.0%)
母子世帯    7.7%   ( 〃  5.7%)
傷病者世帯   11.9%  ( 〃  11.9%)
障がい者世帯  11.2%  ( 〃  13.8%)
その他の世帯  16.2%  ( 〃  15.7%)

このうちの「その他の世帯」の世帯主は高齢者でも障がい者で傷病者でも、母子家庭の母親でもなく、年齢も65歳未満。
「働こうと思えば働けるはず」と問題視されることが多い世帯ということです。
しかし「その他の世帯」の27%は、世帯主以外の構成員が傷病者・障がい者・高齢者であり、介助・介護のために働けない稼働年齢の健常者の可能性がある・・・。
「その他の世帯」の59%が、世帯主が50~64歳であり、一般の労働市場への参入が困難・・・。
そして「その他の世帯」の約27%は「困難な条件の中で必死の求職を行っているにも関わらず、悪条件の就労しかできず、したがって生活保護から脱出することができない」。
こういう現実を、きちんと見なくてはいけないのだと思います。

「生活保護は無料で医療が受けられるから、必要もないのに医療を受けたがる」というバッシングもよく聞かれます。
しかし、生活保護の「医療扶助」は、必要のない医療を容易に受けることが可能な仕組みではありません。

更に「生活保護受給者は税金も払っていない」とのバッシングもありますが、生活保護受給者は低所得だから払えないのであり、免除を受けている。しかしそれでも、消費税を払っています。

本の中には、いくつかの事例が紹介されています。
ずっと一生懸命働いてきた結果精神を患い、再び働けるようになるには保護と時間が必要な方がたくさんいるという事例。
まじめに長年働いてきたけれども、非正規雇用だったので就労が困難になった時に生活を維持できるような貯えをするゆとりがなかったという事例。
どの事例も決して怠けて、社会に甘えて生活保護を受給しているのではない。
そういうことが、よくわかる一冊です。

生活保護は、低所得者を対象とする他の施策の給付水準や給付対象などに連動しています。
就学援助・保育料・国保税の減免・介護保険料と利用料の減免など、47もの制度に連動するようです。
政府の生活保護切り捨ての政策と連動して、今生活保護バッシングが展開されています。
しかしそれに同調して生活保護をバッシングすることは、生活保護だけでなく、それに連動する社会保障の切り下げ、私たちのくらしを追い詰めることにしか繋がりません。

生活保護をバッシングしてはいけないと思います。
そして百田尚樹氏にこの本をぜひ読んでいただきたい、生活保護の現実と人権についてぜひ学んでいただきたい、そう思います。