『統合失調症の過去・現在・未来』

2022年11月25日

少し前にchange.orgで「義務教育で精神疾患を教えて偏見を無くしてほしい」というインターネット署名が集められていました。
統合失調症は100人にひとり、うつ病の生涯有病率は16%と言われる中で、もしかしたらその病気に罹るかもしれない自分や家族・お友だちのためにも、精神疾患についてちゃんと知っておくことは大切だと思い、賛同しました。
今日読んだ本は『統合失調症の過去・現在・未来』(中井久雄 考える患者たち 高宜良 胡桃澤伸著  森越まや編 ラグーナ出版)でした。
精神科医の中井久夫先生が患者・家族・一般に向けて行った講演と、講演を聞いて考えた患者さんたちの生の声、それから患者さんたちの質問に対して精神科医の高宜良先生と胡桃澤伸先生が答えるという構成の本です。

義務教育で精神疾患について教える際のテキストにもなり得る本じゃないかと思いました。
例えば「二日不眠が続き、三日目になって頭が冴えて、『これまでできなかったことが何でもできる。自分は生まれ変わった』という気がしたら精神科を受診した方が良い」ということも紹介されています。
もしかしたら精神疾患かもしれないと、早期受診のタイミングが具体的に紹介されていて、貴重だと思いました。

かつて統合失調症は「精神分裂病」と呼ばれていました。
非常に残酷な診断名で、その診断を受けたらもう終わりというような印象が確かにありました。
2002年に統合失調症と名称変更されましたが、この本には「失調というのはバランスを失したこと」「失調したのは回復するということ。バランスを失ったのだから」と書かれていています。
単に名前が変わっただけではなく、回復する病気と位置付けられた、この事実は本当に大きいと思いました。
一方で発症時、急性期の苦しい体験は「決して『失調』などという生易しいものではなく、確かにあれは『分裂』していた」「『統合失調症』という言葉に助けられている一方、私の病気はそんなに軽いものではなかったというかすかな怒りがある」「言葉にできないほどの体験だった」との生々しい体験も語られていて、この病気をした人でしか語り得ない苦しさもまたよくわかりました。

一番興味深いと思ったのは、躁病・うつ病には二千年を超える歴史があるのに、統合失調症の歴史は二百年に届かないというお話でした。
19世紀に人間を大量に集めて何かをするという営みが始まり、最初にできたのは国民徴兵制度で発明者はナポレオン。
次に流刑者を収容する施設ができ、その次にできたのが病院。
その中で何十年も経ってから初めて、ひとくくりにする病気ができ、つけられた名前が早発性痴呆。
それが精神分裂病を経て統合失調症と名前を変えてきたということです。しかし東京女子医大では30年前まで、「分裂病」というものはないと言っていたそうです。

なぜ統合失調症が長い間精神病院に閉じ込められ偏見にさらされてきたのか、こういう歴史を見ると理解できる気がします。