国政の最大の義務は個人個人の幸福づくり

2021年02月06日

議員の学校、池上洋通先生の講義の続きです。

「自助・共助・公助」それぞれの単語の発生を散見すると、

★自助
イギリスのサミュエル・スマイルズは1859年『自助論』を出版しました。そこに描かれているのは、「天は自ら助るものを助く」です。
日本では1871年、中村正直が『西国立志編』として翻訳・出版しました。
「人間の運命は人間の手中にある」と説いたのはサルトルでした。
この言葉の意味は、「人生にはさまざまな可能性がある。何を選び、どの道に進んでいくかは、自分の責任において決定していかなければならない」ということです。
どちらの言葉も「自分の人生は自分で決める」という意味です。
自助の本質とはつまり自己決定ということであり、決して「まずは自分で頑張れ」という意味ではありません。
誰かを頼る、今は制度を頼る、こうしたことも含めて自己決定なのだと思います。
そしていったん翼を休め、自力をつけ、そしてもう一度自立に向けて歩みだす・・・。
こうしたことも含めて「自己決定」して良いのだと思います。

★「共助」
日本の農村には、江戸時代から非常に強い結束がありました。
そこにはとても丁寧な人間関係が築かれていました。
そうした人間関係があったからこそ、互いに協力して田植えや稲刈りを行い、いざというときにはみんなで協力し合って百姓一揆をおこすこともできました。
1916年(大正5年)、松崎蔵之助は『農業と産業組合』を著し、「協力共助の美風を回復すべし」と、江戸時代への回帰を求めました。
そして翼賛体制の下で、「隣保共助」「隣保互助」が重視される社会が築かれていきました。
そこで求められた「隣保共助」は、単にお互いに助け合うということではなく、互いに監視し合い、密告し合うものです。
日本の民衆が歴史的に作り上げてきた「共助」とは、まったく異質のものでした。

★「公助」の解体
新自由主義の潮流の中で、「公助」の解体という考えが生まれ、進行してきました。
1985年(昭和60年)度の厚生白書には、前年10月の第二次中曽根内閣の閣議報告が掲載されています。
「福祉ニーズの内、個人や家庭では対応し難いもの、普遍的で基礎的なものは、公的部門が対応。一方、個人、家庭、地域社会、企業では自立・自助を基本に、相互扶助の機能を発揮することが期待される。それ故、ボランティア活動が重要だ」と。
これが今の「自助・共助・公助」論の基礎となっているとみられます。
しかし、国政の最大の義務は先に見たように、個人個人の幸福の実現であり、この考え方そのものが重大な憲法違反です。

しかしこの考え方に基づき、1987年(昭和62年)度の厚生白書には、さらにこのように記述されました。
「社会保障制度の再構築=基本的考え方として(1)経済社会の活力を維持する(2)自助、互助、公助、つまり個人・家庭、地域、公的部門の役割分担を原則とする(3)社会的公平と公正を確保する(4)すべてを公的部門によるサービス供給とするには制度的、財政的に限界があり、公と私の役割分担をする」と。

こうした国の考え方に基づき、1987年には国鉄の分割・民営化が行われました。
しかし国有鉄道法第一条には国民の福祉のため、移動する権利を保障することが謳われていました。
国鉄民営化は、先に見た憲法25条「社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」を侵害しています。

1990年代~2000年代にかけては、郵政の民営化が行われました。
憲法21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と謳い、
②では「検閲は、これをしてはならない。 通信の秘密は、これを侵してはならない」と謳っています。
戦前・戦中、特高警察は通信の秘密を侵すことで誰と誰がつながっているかを把握し、それによって集会・結社・個人の弾圧につながりました。
憲法21条は、こうした歴史的事実の反省のもとに明記された大切な国民の権利を謳うものです。
その権利を保障する郵政を民営化してしまった、これも重大な憲法違反です。

そして2012年、民主党政権下で自・公・民の3党合意のもとにつくられた「社会保障制度改革推進法」。
第2条に基本的考え方が記されています。
その一には、「自助・共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していく」と。
菅首相の発言は、この法律に基づいて話しただけのものです。
しかし、この法律そのものが憲法違反であることは、これまで見てきた通りです。

菅首相をはじめ、政府は「自助・共助・公助」を強調しています。
しかし「支援」によって「保障」を放棄することができるのか、「生活保護」は最後の手段なのか、私たちは今本気で考えなくてはなりません。
自助⇒共助⇒公助ではありません。
自助・共助できるような条件づくりに、基礎自治体が全力をあげることこそ、今求められています。

・・・池上先生のお話、こんなことだったと思います。