『ハンセン病 重監房の記録』
『ハンセン病 重監房の記録』(宮坂道夫著 集英社新書)。

この本を書いた宮坂さんは新潟大学保健学科助教授で、生命倫理学・医療倫理学を専門とする方です。そういう経歴の方が書いた本らしい、わかりやすさを感じました。
国立ハンセン療養所栗生楽泉園という、本来ならハンセン病を治療するべき医療施設に「日本のアウシュビッツ」とも評される監獄がなぜ作られたのか、そして今なぜ重監房資料館が設置されているのか、とてもよくわかる一冊でした。
ハンセン病は1万年前には存在していたと考えられ、マウスや水牛から人間に感染したという説もあれば、結核菌が変異したという説もあるそうです。
いずれにしても、インドから東アフリカにかけてのどこかの地域で最初に発生したことは間違いなく、今から約4000年前にはこれらの地域で流行していたとのこと。
ヨーロッパでは16世紀以降ハンセン病患者はほとんどいなくなっていたけれど、植民地を求めて進出した「第三世界」に履かず多くのハンセン病患者がいて、その事実がヨーロッパの人々にヒステリックな脅威を覚えさせた。
ヨーロッパでハンセン病患者が発生していた唯一の国がノルウェーだった。
その事実がノルウェーをハンセン病に対する科学的探究の拠点にしていったこと。だからこそ1873年、ノルウェーのハンセン氏によって「らい菌」が発見され、それまで遺伝病と考えられていたハンセン氏病が感染症であると理解されるようになったことを学びました。
1897年、第一回国際らい会議が開かれた。
これは「文明国」である欧米列強を、多数のハンセン病患者が発生している「非文明国」の脅威からいかに守るべきかという趣旨で開かれた会議で、日本の代表も参加していた。しかしその日本には、たくさんのハンセン患者が発生していた。
この会議でハンセン病が感染症であると認められ、また一般的な清潔法の普及で予防できることや故郷における隔離で十分だということなどが確認された。
アメリカではルイジアナ州南部で多くのハンセン病患者が発生していて、その事実がハンセン病治療薬「プロミン」の発見につながった。
ハンセン病患者に対する差別は1800年代後半のハワイ、南アフリカなどで非常に激しい、「棄民」と言って良いような隔離が行われた。「患者の権利」を医学の中に確立する旗手としての役割を果たしてきたアメリカでも根深い差別があった。
しかしこの時代の諸外国の多くでは、ハンセン病患者の強制隔離を行う上で、少なくとも二つの障害があった。
一つは「本人の意思に反するような強制隔離は避けるべきだという倫理的な反論。もう一つは財政的な理由。
しかし日本では、患者に療養所内のあらゆる仕事に安い報酬で就かせ、強制的に働かせるという驚くべき方法で財政問題をクリア。他国に例を見ない絶対的な「強制隔離」「生涯隔離」が行われ、ナチスのユダヤ人絶滅政策にも匹敵する「絶滅政策」とさえ言われる隔離政策が採られた。
1958年の第7回国際らい会議では、①早期発見・早期治療・外来治療の周知、②強制隔離を定めている法律の全面禁止の2点が決議された。しかし日本を代表して出席した厚生省の官僚は、隔離の完遂を目指すと発言。
「強制隔離」「強制労働」「断種」「懲罰」が日本のハンセン病政策の核心であり、これによって医療者たちは強大な権力を手に市、患者たちの人権は著しく侵害された。この4つの全てが連動し、公的制度となって実現した例は他にない。
これを実現した背景にあるのは、世界最悪の「パターナリズム」であり、
(1)父親(医師)は子ども(患者)に恩恵を与えるように行動する。
(2)何が子ども(患者)の恩恵となるかは、父親(医師)が判断する。患者はその判断に従う。
という概念だった。
栗生楽泉園は標高1200m、当時の冬の気温はマイナス20度くらいになったはず。重監房の床は10㎝ほどの高さしかなく、そこからの冷却。独房を取り囲む廊下には屋根がなく、そこに降り積もった雪からの冷え込みも。
重監房が使用された1939年から1947年までに収監された人は93人で、そのうち22名が死亡(23名との記録もある)。
収監中に亡くなった人が14名、収監中に衰弱して出所後に亡くなった人が8名。22名のうち、なんと18名が11月から3月に亡くなっているとのこと。
収監に関して正式な書類がつくられたのは、93名のうちわずか1件のみ。重監房への収監は、管理する側の胸三寸で決められた裁量罰で、警察も裁判所も一切介入していない。
「国立癩療養所患者懲戒検束規定」には、監禁期間は最大2か月と定められている。
しかし重監房の監禁日数の平均は130日で、中には500日以上入れられていた人もいる。
この恐ろしい人権侵害の歴史を、ちゃんと学ばなくてはいけないのだと思います。
7月8日(水)、岩崎さゆりさんと一緒にハンセン病資料館&重監房資料館の視察報告会を計画しています。ぜひご参加ください。
