『元女子高生パパになる』

2021年04月14日

『元女子高生パパになる』(杉山文野著 文藝春秋)を読みました。

著者の杉山さんはフェンシングのもの女子日本代表という経歴を持つトランスジェンダーで、日本のLGBTQ活動のリーダーです。LGBTQの活動とパートナーさんとの出会いから今に至るまで、そしてその時々の杉山さんの思いなどが率直に記された本です。
LGBTQ、性的マイノリティにとってまだまだ生きにくい社会だと思いますが、この本はとても明るくポジティブに描かれていて、力強さを感じます。

彼女のご両親とも元々親しい関係にあり、著者の「性」についても理解を示してくれていたにも関わらず、二人の関係を話すと、厳しい反対にあいました。「あなたとうちの娘ではすむ世界が違う」「あなたはあなたで生きれ行けばいい。うちの娘を巻き込まないで」「無理なものは無理」・・・。
でも二人の暮らしを続けていく中で、「認める」とか「認めない」とかではなく自然に受け入れられていく・・・。
親友から精子をもらい受けて体外受精で彼女が妊娠。それを伝えると、普通に当たり前にとっても喜んでくれて、子どもが生まれて改めて良い関係がつくられていく・・・。
すごく自然な感じがします。

子どもをつくるにあたって相談にのっていただいた弁護士から様々なアドバイスがあったそうです。
精子提供を受け、出産。生んだ母親はもちろん戸籍上も母親。提供者は生まれた子どもを認知し、もちろん父親。トランスジェンダーのパパは生まれた子どもと養子縁組をしてパパになる・・・。しかし同様のケースでは、子どもが生まれてみると可愛くなってしまい、精子提供者が子どもを手放せないような事例もあったとのこと。生まれる前に、子どもが生まれた後で3人の関係性が悪くなったときにどうするのか、十分に話し合っておくことが大切と。
精子提供者と著者とパートナーさん、3人での子育て。そしておじいちゃん・おばあちゃんは合わせて6人。
なんだか、とっても豊かな感じがします。

2015年、日本で最初に「同性パートナーシップ条例」をつくった渋谷区。同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認める条例です。
きっかけは、現区長である長谷部健さんが区議時代に著者に声をかけたことだったとのこと。「渋谷区で、同性カップルに証明書を出すのはどうかな?」と。長谷部さん自身「婚姻届けはただの紙切れと思っていたけれど、提出してみたらすごい幸福感があった。こういった幸福感を共有するだけでも、まちの雰囲気って変わっていくんじゃないかな」と。まちづくりに「多様性」は必須条件と考えていた長谷部さんは、渋谷区らしいやり方はないかと、ずっと考えていたそうです。

凄いなぁと思います。
ひとりの区議の発想が当事者たちの共感を呼び、区議会を動かし、区を動かし、そして今全国に大きな影響を与えています。全国で60以上の自治体で同性パートナーシップ条例が設置され、昨年11月時点で1,300組を超える同性カップルが証明書の発行を受けています。

吉川市でも昨年3月議会で、レインボー埼玉の皆さんから出された請願「吉川市におけるパートナーシップ認証制度(仮称)及び性的少数者に関する諸問題への取組みに関する請願」が採択されました。しかし、まだ条例化されていません。条例化をしっかりと求めていかなくてはと改めて思いました。

また、4月10日のしんぶん赤旗の記事によると同性婚法制化に8割が賛成しているとのことです。私も賛成です。ぜひ法制化をと思っています。
本のあとがきに、こんなことが描かれています。

多様性=ダイバーシティとは、一体誰のことを指すのだろうか。
多様性を語るときによく「高齢者、障がい者、外国人、LGBTQなどの多様な人」と形容されることがある。しかし誰だって生きていれば、いずれは年を取り、高齢者になるだろう。今日の帰り道にでも事故に遭えば、僕も明日から車いす生活かもしれない。誰だって海外に行けば外国人だし、自分がLGBTQの当事者ではなくても、生まれてきた子どもがそうかもしれないし、子どもが連れてきたパートナーがそうかもしれない。
そう考えると、多様性とは今を生きるひとりひとり、みんなのことなのだ。誰もが、多様なそれぞれの人生を生きている。

その通りだと思います。
どうあるべきだとか、どう生きるのが正しいとか、そういった価値観を押し付け合うのではなく、ひとりひとり誰もの生き方を認め合い、受け容れ合える。そういう社会が、本当に成熟した社会だと思います。

良い本を読みました💖